57.慕えばいい？ ページ10
……今日も１日、お疲れ様。
ガチャリと店の扉に鍵をかけ、もう一度閉まってるかどうかを確認してから私は帰路につく。住宅街といえどやはり夜道を歩く人間は私しかおらず、薄暗いそこからは現実離れした妙な禍々しさを覚えた。
もう時刻は夜の１１時。店内の片付けに手こずって、こんなに遅くなってしまった。
早くお風呂に入って布団に潜り込みたいなぁ。その前に夜ご飯も食べなきゃ……でも、今日はもう疲れた。
はぁ、と私は誰に向けたわけでもない溜め息を溢す。
──……今日１日分の疲労で、私の思考回路は若干鈍っていたのかもしれない。だから、突然曲がり角から人が走ってきたことにも気づかなくて、物の見事にクリティカルヒットしてしまったのだ。
「……いったぁ」
反動で思わず尻餅をついたのは私だ。あまりに刹那的な出来事だったせいか、何が起こったのか最初は把握できなかった。けれど、
「たっ、大変申し訳ありません！」
どこか見覚えのある青年の慌てふためいた様子を見て、ああ私はこの人とぶつかってしまったんだと冷静さを取り戻した。
「私の方こそごめんなさい。ちゃんと前を見ていませんでした」
「いえ、非があるのは私です。お怪我はございませんか？」
そう言って伸ばされた彼の手に捕まり立ち上がると、自分の手のひらにジンジンとした痛みを感じた。どうやら転んだ拍子に軽い擦り傷を負ってしまったようだ。
それに気づいた彼は、より顔を真っ青にさせる。
「なんてことを……っ！ 大丈夫ですか！？」
「いえあの、大した怪我じゃありませんから。心配しなくてもきっとすぐに治りますよ」
まるで大事件でも起こったかのような彼の慌て振りに、私は何だかおかしくなってクスリと笑ってしまった。途端に「え？」と一驚の声が聞こえる。
「ふふっ。こんな時に笑ってしまってごめんなさい。でも私は本当に大丈夫ですから。あなたの方こそ、怪我はありませんか？」
「いえ……」
月の光に照らされる、彼。
暗くて今までよく見えていなかったが、月光を反射する彼の髪の毛は、真昼の空を彷彿とさせる綺麗な淡い水色であった。私はそこでようやく思い出す。一度会っていると。
更に決め手となったのは、彼が山姥切君の通う高校のジャージを見にまとっていることだった。
「……君、以前カフェに来ていた……」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 287人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ツキノ(プロフ) - この作品が大好きです。。もう何周もしてます…こんな素敵な作品をありがとうございます！ (2022年1月17日 0時) (
レス) @page50 id: b34edaf8ba (このIDを非表示/違反報告)
尊 - 最期まで清く上品な作品でした。素敵な作品を読めて幸せです！ (2020年5月6日 14時) (レス) id: 83655268b3 (このIDを非表示/違反報告)
テクノ(プロフ) - とても感動しました。皆が幸せになってくれて良かった。 (2019年3月21日 1時) (レス) id: 5d0adffebe (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - 桜餅さんさん» 気に入っていただけて嬉しいです！紳士でロイヤルな一期君も勿論ですが、少しヘタレだといいなという私の願望を詰め込みました（笑）いえいえ、こちらこそ楽しいリクエストありがとうございます！ (2017年9月23日 15時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
桜餅さん(プロフ) - こういう一期さん待ってましたありがとうございます（遺言） (2017年9月23日 14時) (レス) id: 75edde69e3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アオト
| 作成日時：2017年8月12日 0時
