89.【番外編】困りますお客様！�� ページ44
私は今もしかしたら、人生の窮地に立たされているのかもしれない。そう言っても過言ではないほど、目の前の人物達に手を焼いていた。
ずらりと並んでカウンター席に座る彼らは、終始マイペースな笑みを浮かべる。左から三日月宗近、鶯丸、小狐丸の平安刀である。
「主、俺は芋けんぴが食べたいな」
「では俺は茶を頼もう」
「ぬしさま、私は稲荷寿司を」
芋けんぴ、茶、稲荷寿司。
仮にも現代のオシャレカフェにそんな古風なものがあろうか。いや、残念ながら無い。なぜなら普段来店するお客様に、そういった食べ物を求める年齢層は一人もいないからだ。
鶯丸君の言う茶にしても、麦茶や紅茶はあるのだ。しかし彼の好むような奥ゆかしい日本茶がここには無かった。
ああどうしよう。これは盲点だった。
若者にばかり気がとられて、すっかりお年寄りの嗜好を軽視してしまっていた。ん？ お年寄りっていうのもおかしいな。前世と違って今は私の方が歳上なんだし……。
まあそんなことは置いといて！
とにかく穏便に対処しなければならないのが店長の務め。
「えっと、ごめんね皆。うちのカフェは芋けんぴも日本茶も稲荷寿司も用意してないんだ。だから、あの、メニュー表にあるものを注文してくれると助かるなぁ」
波風を立てぬよう、自然な流れで断った。
……つもりだった。
「そうか……俺は主の作った芋けんぴが大好きでな。またこうして味わえるのを楽しみにしていたんだがなぁ。そうか、無いなら仕方ない。いやなに、無理を言うつもりはないが……そうかそうか……」
ソーカソーカと、まるで呪いのように繰り返す三日月君。その表情はなんというか、例えるならお気に入りのオモチャを取り上げられた子供のようだ。
──え、そこまで落ち込む……？
“穏やか”イコール“三日月宗近”。なんて方程式ができてもおかしくないほど彼は穏和で、常に微笑んでいた。そんな彼が、芋けんぴを食べられないという理由だけでこんなにもしょんぼりと肩を落としている。
なんだか、私がとても酷い事をしてしまったように思えてきたぞ。どうしよう困った。
かける言葉が見つからなくて狼狽えていると、いつのまにやら隣の鶯丸君と小狐丸君にもソーカソーカの呪いが移る始末。
「そうか、茶はないのか……」
「ぬしさまの稲荷寿司、食べとうございました……」
うっ、そんな顔をされては困りますお客様！
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ツキノ(プロフ) - この作品が大好きです。。もう何周もしてます…こんな素敵な作品をありがとうございます！ (2022年1月17日 0時) (
レス) @page50 id: b34edaf8ba (このIDを非表示/違反報告)
尊 - 最期まで清く上品な作品でした。素敵な作品を読めて幸せです！ (2020年5月6日 14時) (レス) id: 83655268b3 (このIDを非表示/違反報告)
テクノ(プロフ) - とても感動しました。皆が幸せになってくれて良かった。 (2019年3月21日 1時) (レス) id: 5d0adffebe (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - 桜餅さんさん» 気に入っていただけて嬉しいです！紳士でロイヤルな一期君も勿論ですが、少しヘタレだといいなという私の願望を詰め込みました（笑）いえいえ、こちらこそ楽しいリクエストありがとうございます！ (2017年9月23日 15時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
桜餅さん(プロフ) - こういう一期さん待ってましたありがとうございます（遺言） (2017年9月23日 14時) (レス) id: 75edde69e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アオト
| 作成日時：2017年8月12日 0時
