85.笑っていて。 ページ38
「刀をしまいなさい！」
もっと。
「戦いを止めなさい！」
もっと。
「いいから主命に従いなさい！！」
呼吸が苦しくて、肩が激しく上下に揺れる。
「なんで！？ 主は死にたいの！？」
「俺達はまだ戦えるよ！」
大和守と加州の言葉に視線を上げた時、泣きじゃくる乱の姿が目に入った。
「あるじさんどうして！？ どうして死のうとするの！？ 生きることを選んでよ！ ボク達がそう簡単に何でも主命に従うと思ってるの！？」
「あなた達に拒否権はありません！ 従うのです！」
「嫌だ！！ ねぇ、あるじさんお願い……お願いだから生きてよっ……命をもっと大切にして……！ 笑ってサヨナラしようって言ったじゃん！！」
「乱……」
「ボク達は折れても構わない。それであるじさんを守れるなら本望だから！」
「……だからこそダメなのです！」
「えっ」
私は目を瞑り、禁句とされている文を唱えた。
もうこれで、終わる。
「──顕現を、解きます」
「主っ！ やめ…………」
こちらに伸ばした山姥切の手が、途端にふわりと桜の花びらへ変わる。悲哀に満ちた彼の顔へ私も手を伸ばすが、それが触れる頃にはもう、ただの“刀”が一振りあるだけだった。
バタンバタンと、顕現の解けた“刀”が次々と床に落ちる。
まるで満開の桜の木の下にいるように、あたり一面に花びらが舞っていて。ああ、最後にいい景色が見られた、と私は笑った。
最初からこうすれば良かったんだ。
「さて……」
おどろおどろしい気配をまとった、大勢の時間遡行軍が私を取り囲む。今更逃げようとか、そんなの考えてないから。煮るなり焼くなり好きなようにしてよ。
そして、一振りの打刀が私の目の前に立ちはだかった。怨念に塗れた視線が突き刺さったとき、私は初めて自分の体が震えていることに気づく。
でも、最後に……。
すぐ側にある、“山姥切国広”を抱き寄せた。
ありがとう。ありがとう。ごめんなさい。
こんなにダメな主でも、最後にあなた達を守ることができて良かった。もう思い残すことはない。
涙で視界がぐにゃりと歪んでも、刀を振り上げる遡行軍の姿はしっかりと捉えることができた。
……さようなら。
私の愛しい刀達。
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ツキノ(プロフ) - この作品が大好きです。。もう何周もしてます…こんな素敵な作品をありがとうございます！ (2022年1月17日 0時) (
レス) @page50 id: b34edaf8ba (このIDを非表示/違反報告)
尊 - 最期まで清く上品な作品でした。素敵な作品を読めて幸せです！ (2020年5月6日 14時) (レス) id: 83655268b3 (このIDを非表示/違反報告)
テクノ(プロフ) - とても感動しました。皆が幸せになってくれて良かった。 (2019年3月21日 1時) (レス) id: 5d0adffebe (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - 桜餅さんさん» 気に入っていただけて嬉しいです！紳士でロイヤルな一期君も勿論ですが、少しヘタレだといいなという私の願望を詰め込みました（笑）いえいえ、こちらこそ楽しいリクエストありがとうございます！ (2017年9月23日 15時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
桜餅さん(プロフ) - こういう一期さん待ってましたありがとうございます（遺言） (2017年9月23日 14時) (レス) id: 75edde69e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アオト
| 作成日時：2017年8月12日 0時
