67.ないんだ。 ページ20
先週、山姥切君が「嫌いではない」と言ってくれた柿を早速実家から取り寄せた私は、新作メニューのためカフェの厨房で孤軍奮闘していた。
ネットや本を見て色々調べてみたところ、柿で作ったジャムがとても美味しいらしい。そこで、今日は試しに私も柿ジャムなるものを作ってみたのだ。
「おお〜……」
鍋いっぱいに広がる夕日色のジャムは、宝石のようにキラキラと輝いている。少し温度が下がってきた頃を見計らって、指でそれをすくい上げてペロリと舐めた。うん、ちょうど良い甘さ。美味しい。
食パンにもきっと合うだろうな。
是非とも山姥切君にも食べてもらいたいところだが、本日は(カフェの営業も含め)お休みのため、また後日味見をお願いすることにした。
じゃあ次は、柿の入ったパウンドケーキを……。
──……コンコン。
「え？」
かすかに聞こえたノック音。
思わずその音の方へ目を向けるが、木製の扉があるだけで来店客はいなかった。あれ？ でも確かにコンコンって鳴ったよね？
とはいえ看板はclosedに裏返しているはずだし、店先のブラックボードにも“本日休業”としっかり書いてある。
てことは、お客さんじゃない……？
不審な出来事に少し怖くなって、じっと扉を見つめていると、もう一度同じようにコンコンと渇いた音がした。
それから数分程経っただろうか。悩み抜いた挙句、ようやく腹をくくった私は恐る恐るその扉を開いた。しかし、もうそこには誰１人としていなかった。
待ちくたびれて帰ってしまったのか、それとも単純に今日がカフェの休業日だと気がついたのか。いや何にせよ、良かった。
一抹の不安を振り捨てるように軽く息をついた時、またもや背筋がゾッと凍った。
──足元に、黒い百合の花束。
そして見慣れた紙と“消えてしまえ”の６文字。
「……何これ、やだっ……！」
恐怖のあまり勢いよく扉を閉じた私は、腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。ジワリ、滲み出る涙が視界を歪める。
どうして、あんなものが。
花にさほど詳しくない私でも、何度か耳にしたことがあった。贈り物にしてはいけない花、それが黒百合だと。黒百合の花言葉は２つある。１つは“恋”で、もう１つは……呪い。
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ツキノ(プロフ) - この作品が大好きです。。もう何周もしてます…こんな素敵な作品をありがとうございます！ (2022年1月17日 0時) (
レス) @page50 id: b34edaf8ba (このIDを非表示/違反報告)
尊 - 最期まで清く上品な作品でした。素敵な作品を読めて幸せです！ (2020年5月6日 14時) (レス) id: 83655268b3 (このIDを非表示/違反報告)
テクノ(プロフ) - とても感動しました。皆が幸せになってくれて良かった。 (2019年3月21日 1時) (レス) id: 5d0adffebe (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - 桜餅さんさん» 気に入っていただけて嬉しいです！紳士でロイヤルな一期君も勿論ですが、少しヘタレだといいなという私の願望を詰め込みました（笑）いえいえ、こちらこそ楽しいリクエストありがとうございます！ (2017年9月23日 15時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
桜餅さん(プロフ) - こういう一期さん待ってましたありがとうございます（遺言） (2017年9月23日 14時) (レス) id: 75edde69e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アオト
| 作成日時：2017年8月12日 0時
