64.やれるほど ページ17
◇◇◇
──主は、すぐに溜め込んでしまうタイプだと思う。
俺はカフェのテーブルを拭きながら、カウンター内にて新商品を模索する主を眺めた。小さなメモ帳を片手に、先ほどから難しい顔をしている。
もう時刻はお昼をとっくに過ぎていて、店内もいつも通りの静けさを取り戻していた。穏やかなBGMだけが流れるこの時間帯。割と好きだったりする。
なんて人知れず思いにふけていると、唐突に主が「ねぇ、山姥切君」と口を開いた。
「なんだ」
「秋といえば……何？」
「……俺に聞かれても」
「やっぱり柿とか？ 山姥切君は柿好き？」
「嫌い、ではない」
「じゃあアリってことだね」
にこりと笑い、主はメモ帳にペンを走らせる。
やはりまだちゃんと眠れていないのだろうか。明るく表情を取り繕ってはいるものの、その目の下には薄っすらと隈が浮かんでいて、この前プレゼントしたクマの人形(まんばちゃん)がいまいち効力を発揮できていないと知り落胆した。
もし何か悩みを抱えているなら、俺に相談してほしい。解決できるかどうかは分からないけど、１人で苦しんで欲しく無いのだ。
でもきっとアンタは“心配をかけたくない”とか、よく分からないことを考えているんだろうな。
そうやってずっと１人で背負って、勝手に判断して、周りのことばかり優先して。自分の身なんかちっとも考えないで……本当に、昔と変わらないな。
主。どうして俺を頼ってくれないんだ。
また俺を置いて遠くへ行ってしまうのか。
いや、“山姥切国広”だけじゃない。あの本丸にいた全員が、また主に愛されることを望んでいる。だから教えてくれ。今なら言えるだろう。どうしてあの時──、
“……顕現を、解きます”
俺達を信じてくれなかったんだ？
──ぽたり、と生温い液体が手の甲に落ちた。意味が理解できずに最初はなんだろうと思ったが、すぐにそれは自分の目から溢れ落ちたものだと分かった。
なんで泣いている？
シャツの袖で拭うが、涙は次から次へと流れ出ていく。
「な、んだ……これ」
どんなに拭ってもシャツに灰色のシミが出来るだけで。せめて主には見つからないようにとカウンターに背を向けると、偶然窓際に座っていた女性客と目が合った。
みっともなく泣き続ける俺に驚いたのか、その人は歩み寄る。
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ツキノ(プロフ) - この作品が大好きです。。もう何周もしてます…こんな素敵な作品をありがとうございます！ (2022年1月17日 0時) (
レス) @page50 id: b34edaf8ba (このIDを非表示/違反報告)
尊 - 最期まで清く上品な作品でした。素敵な作品を読めて幸せです！ (2020年5月6日 14時) (レス) id: 83655268b3 (このIDを非表示/違反報告)
テクノ(プロフ) - とても感動しました。皆が幸せになってくれて良かった。 (2019年3月21日 1時) (レス) id: 5d0adffebe (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - 桜餅さんさん» 気に入っていただけて嬉しいです！紳士でロイヤルな一期君も勿論ですが、少しヘタレだといいなという私の願望を詰め込みました（笑）いえいえ、こちらこそ楽しいリクエストありがとうございます！ (2017年9月23日 15時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
桜餅さん(プロフ) - こういう一期さん待ってましたありがとうございます（遺言） (2017年9月23日 14時) (レス) id: 75edde69e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アオト
| 作成日時：2017年8月12日 0時
