〜終〜 ページ33
「どう?体調は。倦怠感とか、腹部の痛みはある?」
「大丈夫だよ。むしろ、前より体調がいい気が
する」
「ならよかった。治しがいがあったと言うものだ」
間白は吉野からのお誘いで横浜にある映画館に足を運んでいた。どうやらここで未配信、DVD化されてないレアな映画がリバイバルされるらしい。
「あれ、虎杖君は?」
「私、仕事場から直接来たから一緒じゃないんだよ。でも、もうすぐで来ると思うよ」
吉野と会うのは3週間振りになる。
間白は彼の佇まいからどことなく、いい意味で吹っ切れたような雰囲気を感じた。
「あのさ。ありがとう。治してくれて」
吉野は伸ばしていた前髪を上げた。
今まで髪で隠していた右側の額。そこにあった根性焼きの跡は、さっぱり綺麗になくなっている。
「お礼を言われる筋合いはないよ。言われてもないのに、いらないお節介をしたんだから」
「でも、僕は助かった。傷を見るたびに余計なことを思い出すことがなくなったから」
「……ならよかった」
「あ!順平!間白!」
ここでやっと虎杖が合流した。
駅前の映画館だからか、これから上映する映画がそれなりの有名なものだからか、館の席は中々に埋まっていた。
3人は後ろ側の座席に虎杖、吉野、間白の順番で座った。
間白の座席にあるドリンクホルダーにファンタグレープを差し込んだ。こいつのお供はチョコ味のチュロスである。
──私はこの映画を、この味を何度繰り返すんだろう。
まだ、壁を一つ乗り越えただけ。
間白はスカートのポケットに入れた万年筆を撫でる。
上映を告げるブザーが鳴った。
暗転。
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作者名:四畳間 | 作成日時:2023年12月7日 17時