〜9〜 ページ30
「バイバぁ〜イ」
呪霊が排水溝から逃げる。
「待て!」
「楽しかったよ」
──ふざけるな。動け体!殺すんだろ!アイツを!!グチャグチャに叩き殺ろ……。
体が動かない。瞼は自分の意に反して勝手に下がっていく。
瞼が完全に閉じきり、視界が真っ暗闇となった瞬間。視界が白く眩いた。
「うっ……あ?」
体ごと浮くような意識の浮上。虎杖はその勢いのまま上半身を起こした。
痛みはない。穴だらけだった体は塞がっている。
さっきの光景は記憶がリプレイされた夢だと知覚する。
「うおっ、起きたか」
右隣から間白の声が聞こえた。
「あ、ん?間白、その」
虎杖は間白の姿を見て、混乱で言葉が詰まった。
あのツギハギ呪霊との戦い。自分が覚えている記憶の中で、間白に目立った負傷はなかったはずだ。しかし、目の前にいる間白は車椅子に座り、片方の鼻孔には脱脂綿が詰められている。
「あぁ、これね。その質問に答える前に」
間白は車椅子の向きを変え、虎杖と向き合う。
「あのツギハギ呪霊は逃した。ごめん」
「いや、謝るのは俺のほうだ。俺が。俺が弱かったから」
──順平は死んだ。あと少しでアイツを殺せていたはずなのに自分が倒れたせいで足を引っ張った。
虎杖は歯噛みする。強く握り込まれた拳に間白の手が重なる。
「それと、もう一つ。伝えたいことがある。立てる?」
そう間白に言われ、虎杖はベット下に揃えられていたスリッパを履いた。足にふらつきはない。
「車、押すよ」
「大丈夫。すぐ隣だから」
「遠慮すんなって」
「じゃあ、お願いします」
と間白は虎杖に指示を出す。しかし、本当にすぐ目的地は隣だった。
ついさっき虎杖が眠っていたベットの隣
カーテンに囲まれ、その向こうで寝ているであろう人の姿はここからじゃ見えない。しかし、虎杖の中で思い当たる人物は1人しかいない。
虎杖は恐る恐るカーテンを開ける。
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作者名:四畳間 | 作成日時:2023年12月7日 17時