幕間 呪力と脳 ページ23
「すまないな、間白。本来、学生に任せるべき仕事でないが」
「いえ、私の力が役立つなら」
そう言って、間白は目の前の遺体に手を合わせた。
検死室に並ぶ2体の遺体。その様相はおおよそ人間とは思えない。だが、人間だ。呪霊のような異形の姿と呪力を与えられただけの。
間白の術式範囲は無生物のみである。故に生命活動を終えた死体はその範囲内に入る。
間白は2体のうち、腕時計を身につけた遺体に手を伸ばした。素手に氷のように冷えた、ゴムのような感触が伝う。
術式「正鵠」──往事明瞭
この技は触れた物体が辿った変化、いわゆる履歴を知ることができる。
しかし、使う際にはその場から動けない事と呪力効率の悪さ、下手を打つと物体の持つ情報量に脳が破裂する可能性もあるため滅多に使わない。
「脳の変化を重点的に見てくれ」
「わかりました。えっと、ここって何て言うんですか?」
「脳幹だ。ここが障害されると四肢の麻痺や意識障害が起こる。やはり、弄られてるか」
「はい。けど、脳幹だけじゃないんです。脳全体を微妙に弄られてます」
「……詳しく教えてくれ」
「えっと、脳の前の方と──」
間白の指摘によると、扁桃体と側坐核が肥大し、それ以外の部位は縮小しているらしい。
「強いストレスに晒された人間の脳は変形するというが、それを極端にしたようなものだな」
「そう言えば、"猿の手"に教えられたんです。時々、後天的に呪力が目覚める人間がいるって。そして、その人間は決まって強いストレス。いわゆる修行や、虐待、拷問を長期間体験していると」
家入は興味深そうに耳を傾ける。
"猿の手"。
紀元前を生きた呪術師の話を聞けるのは貴重な機会だ。しかも、彼の自論によると呪力は生まれつきの才能であると言う定説が覆る。
「なるほど。だが、ストレス社会と呼ばれている今に呪術師が増えないのは何故だ?」
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作者名:四畳間 | 作成日時:2023年12月7日 17時