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プロローグ ページ1

▫️揺れる車内。
 どれも同じに見える木々の景色。
 足に伝わる重さと体温。
 懐かしくあれど、良いものとは言い難い。そんな記憶が夢の形を持って目の前に現れた。だが、11年も前の出来事だ。完璧とは言えない。ところどころ靄がかかったように朧げで、自分が認知する事実とは異なる部分が表出してしまっている。
 今見ているのは、かつて地図にも載ってない田舎へ任務に赴いた、その帰りの風景。夕日が車窓から入り、目に映るもの全てにオレンジ色が混ざっている。
 事実に準えば、この時まだ6歳だった美々子と菜々子の2人を自分が抱えて後部座席に座っていた。しかし、夢の中の自分が抱えているのは美々子1人だけ。菜々子は隣に座る「誰か」に抱えられている。
 その「誰か」は呪術高専の制服を着ていること以外、全くわからない。顔は絵の具を指で伸ばしたように輪郭ごと崩壊している。目も鼻も口も、あるのかすら判断できない。だが、不思議と恐怖は感じなかった。
「縺ェ繧薙〒隕壹∴縺ヲ縺?k?溷ソ倥l繧」
 逆再生のテープみたいな声が「誰か」から聞こえる。不明瞭で意味をなさないが、強い口調で訴えようとしてることだけはわかる。
 そして、「誰か」は腕に抱えていた菜々子をこちらに預けてきた。





……。
…………。
「せ……せい」
「せんせい……」
「先生、時間ですよ!起きてください!」

 夏油は教え子の声で目を覚ます。
 寝起きでぼんやりとする中、仮眠をするから1時間後に声をかけてくれと頼んでいたことを思い出した。

「あぁ、ありがとう。そうだ、報告書は終わったかい?」
「バッチリです。っていうか、先生大丈夫ですか?目覚ましを人に頼むなんて相当ですよ?」
「明日になれば落ち着くから平気だよ。それに君も立て続けに任務が入っているだろう」
「私はまだ若くてピチピチなのでなんのことないです。んじゃあ、役目は終わったのでお先に失礼しますね〜」

 そう言って部屋を出る生徒の背中を夏油は見送った。



 夏油は先ほど見た妙な夢をすでに忘れていた。

猿の手編〜1〜→



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作者名:四畳間 | 作成日時:2023年12月7日 17時

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