漆 ページ9
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「!?」
政宗の一言に驚いたのは燭台切だけでは無かったらしく、黙って様子を見ていた小十郎も、そして木陰で休んでいた成実でさえも、目を丸くして、自分達だけで話を進める二人を交互に見た。
『おお、そりゃありがたい!』
「ちょ、ちょっと待って主!」
燭台切が卯月の腕を引き、一度政宗から離れる。
「聞いてないんだけど…!?」
『言ってないからな。』
燭台切は頭を抱えた。
この様子だと、他の男士達は勿論の事、近侍である山姥切国広にも知らせていないのだろう。
(…帰ったら山姥切君に胃薬を持って行こう。)
燭台切は内心で部隊長の胃を案じ、胃に優しい料理は何かあったかと、一人、思考を巡らせた。
一方、一人残された政宗は、早足で近付いてきた小十郎と成実の方を見た。
「おい、政宗……」
「なんだ。何か問題でもあるか?」
「問題でもあるか、じゃねぇよ!そんな、いきなり現れた素性の知れない奴ら、城に入れちまって良いのかよ…!?」
「そうだぞ、政宗。命の恩人とは言え、まだ敵軍の間者でないと決まった訳ではないだろう。」
「だからこそ、だ。」
焦りを浮かべる二人に対し、政宗は至って冷静に、言葉を続ける。
「敵か味方かわからない以上、まだ様子を見るしかない。」
「…だから、敢えて彼らを城に入れ、近くで監視しておく、と言う事か。」
「ああ。」
「いや、でもさー……」
小十郎と成実が不安げに顔を見合わせる。
政宗も、二人の言わんとする事が分からない訳ではなかった。
そしてそれは、二人も同じだった。
現状、様子を見る、というのが一番得策なのは確かだ。
しかし、素性の知れない相手を城に招き入れるという事に、不安や警戒心を抱くのも当然だろう。
事が起こってからでは遅いのだから。
暫しの沈黙が続いた後、小十郎が深く溜め息を吐いた。
「全く…お前はいつもそうやって一人で突っ走って……だが、一度言い出した政宗を止める事は、俺達には出来ないからな。」
「だな。ま、いざとなっても俺達なら何とかなるだろ!」
二人の顔からは、既に不安の色は消えている。
その様子に、政宗はそっと、口元を緩めた。
(そうだ。俺達なら、きっと……大丈夫だ。)
そう、心の中で呟いて、再び、離れていった卯月達に視線を向けた。
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夜霧 - 面白い (2018年6月24日 15時) (レス) id: d12e91b5f7 (このIDを非表示/違反報告)
ユキナ - おもしろかったです♪更新頑張ってくださいねq(*・ω・*)pファイト! (2018年3月10日 16時) (レス) id: 0f45599fe0 (このIDを非表示/違反報告)
お母さん(プロフ) - 面白いです!更新頑張ってください! (2018年1月8日 2時) (レス) id: 335a7d9d6b (このIDを非表示/違反報告)
銀狼(プロフ) - とても素晴らしい作品ですね!これからも更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月25日 16時) (レス) id: a78c622004 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クレイン | 作成日時:2017年12月25日 15時