Hate You!〈F.Taisuke〉

好奇心……？　１ ページ24

カウンターに近づいてみても彼女はまったく顔をあげる気配がなくて、どうしたものかと悩むけれど。
「あの、すみません」
恐る恐る声をかければびくりとはねる細い肩。
こちらをみた彼女の眉間には深い深いしわが刻まれて。


「……何か」


聞こえた声は恐ろしく低い。
「あのさ、これ…」
「もしいつもみたいなことをわざわざここまで言いにきたなら、すぐ帰ってもらえる？」
邪魔だから、と一切こちらを見ないAちゃんに焦って彼女の目の前に本を突き出す。
「違うから！これ借りに来ただけだし！」
「え……」
まじまじと俺と『バスケ入門』を交互に見つめ、それでもなお信じられないように視線がもう一往復した。
「……藤ヶ谷太輔も本とか読むんだ」
「ちょ、失礼な」
「うそ、ごめんなさい」
ぺこり、とカウンター越しに軽く頭を下げた拍子に髪の毛が肩を滑って、ふんわりとした甘い匂いがする。
そして顔をあげた彼女は、きっと俺のことを彼女が認識してから初めて俺の目を見た。
「…バスケの授業？」
「へ？ああ違う違う、俺バスケ部」
「それ入門書って書いてあるけど…まさかドヘ…」
「ちがうから！」
タ、と言われる前にかぶせるようにそう言えばへぇ…といぶかしげな顔。
「スリーポイントをもう一回ちゃんと押さえときたくて本でも読もうかなって」
「バスケ部ってことは…ポイントだけおさらいしたいんだよね」
「うん、そうだけど…？」
何やら思案顔でうーん、という彼女に思わず首を捻れば、おもむろに椅子から立ち上がった彼女がカウンターから出てきた。
「その本、わかりにくいからこっち」
「へ……？」
「だから！こっち」
なおも突っ立っている俺にしびれを切らしたのか俺のジャージの裾を持って彼女はぐいぐいと俺を引っ張って書架へと入っていく。


「……あった、この本」


これ、ちゃんと写真がいっぱい載ってて見やすいから、と渡されたのは『スポーツ』の棚ではなく『人体力学』とかなんだか難しそうな棚にある本だった。
だまされたと思って読んでみて、と渡されてぱらぱらとめくれば確かに写真付きでわかりやすい。
俺の悩んでいたところもちゃんと書いてありそうだ。
「これ、まじわかりやすそうだわ」
ありがと、と言えば別に…とそっけない返事。
でも…。

「あのさ、いい加減ジャージ離してくれる？」

ずっと握りしめられたままだったジャージのことを指摘すれば真っ赤になってばっと手を離す姿に、なぜだか胸の奥の方が小さな音を立てた。

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