【QK】小瓶を覗く (ページ9)

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4 恋をする花_kwkm ページ9

「川上先生」
「もうその呼び方やめなって」

俺は確かに、Aに恋をしていた。今も昔も。
その奔放な性格に振り回されながらも、心のどこかで楽しくて。かと思えばその人と異なる感性を持つが故に思い悩むこともある、そんな彼女を放っておけないのだ。

「呼びたいんです。先生は私の中ではいつまでも先生だから」

Aにとっての俺は、どこまで行っても『先生』なのだ。尊敬の対象なのだ。彼女が俺をいつまでも下から見上げている限り、俺のこの気持ちと交わる事はない。

「…やっぱり駄目ですか？」

息が苦しい。

「……別に…」

あぁ、まただ。
僕の臆病なせいでいつも彼女を裏切り続ける。嘘をつき続けているのだ。彼女の慕う『川上先生』はもういないのに。

こんなにも、俺はAのことが好きなのに。

目を瞑ると、小さく息を吐いた。

「…もし」
「え？」
「もし、あの時川上先生と知り合っていなかったら、今頃どうなってたんでしょう？」

夕陽のせいか冷たいそれとも秋の風のせいか、Aがやけに悲しそうに見えた。

『きっと、それでもAを好きになっていたと思う』

…なんて言えたらこんなに後悔はしていない。自分に負い目を感じていない。

「どうやったやろうね。少なくともAの先生呼びは無かったと思う」
それを聴くとAは、「確かに～」とへらりと笑った。

「川上さんとか？いやいや出来ませんよ～」
川上さん。いつも後輩たちはそう呼んでいるが、Aに呼ばれるそれが表すのは単なる先輩後輩の関係付けだけではない。俺とAの場合は、関係そのものに価値があるからだ。

「俺はその方がありがたいけど…」

小さく呟いた精一杯の愛の告白は、彼女の耳には届かず所在無さげに冷たい空気を漂っていた。