2 夢_izw ページ3
｢伊沢さん伊沢さん！電車来ちゃいますよ！｣
｢うわほんとだ！｣
電車の到着まであと数分。薄暗い駅の2番ホームへ、2人で駆け出した。
｢えっ、何これ…？｣
ホームへ降りる階段が途中で途切れており、地面から階段の端までは2.5メートルほどの高さがある。
｢やばいなぁこれ｣
2人で立ち往生していると横に誰かが現れた。
｢飛び降りられますよこれくらいなら！｣
そう言って彼はひょいと崖を飛び降りた。
何事もなかったかのように、唖然とする私たちの方を振り返った。
｢すん…！？ちょっ、待って！｣
｢じゃあ自分は行くんで！｣
思わず声を上げるも、すんは直ぐにどこかへ行ってしまった。
｢…行くか｣
｢え！？｣
その呟きを聞いて私が伊沢さんの方を見た時には既に本人は視界の外にいた。
｢これ全然大丈夫だわ！Aもおいで！｣
数メートル下の伊沢さんは、怪我をした様子もなくこちらに腕を広げている。
｢無理です無理です！こんな高いとこ…｣
｢高いとこ苦手な俺が言ってるんだから大丈夫｣
｢大丈夫。俺が受け止めてあげるから｣
その言葉が私をすっと安心させた。崖の端に腰掛け、ゆっくり深呼吸をする。
｢行きます｣
｢うん｣
終始目を瞑っていたので分からなかったが、きっと不格好な飛び方だっただろう。それでも、この柔らかさ、温かさが無事を示していた。
｢大丈夫だったろ？｣
ゆっくりと目を開けるとそこには見慣れたパーカーと笑顔の伊沢さんがいた。
｢はい…って、あぁ！｣
目を瞑っていた間、ずっと伊沢さんに抱きしめられていた。その状況を理解できると、恥ずかしさのあまり腕を解いて後ずさりしてしまった。
｢そんなびっくりする！？｣
｢しますよ！だって…！｣
好きな人に抱きしめられるだなんて…
夢を見ているみたいだ。
｢だって？｣
｢なんでもないです｣
｢俺は━━━━━｣
電車の到着を告げる音楽がやけにうるさく聞こえた。
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スマホのアラーム音の残響は、薄暗い部屋を悲しげに漂っていた。
｢んーー…｣
『AM5:16』
冷たいデジタル時計に背を向け、また夢の中での旅に出た。夢の中だけなら、都合良く振り向いて貰えるから。だからずっと離れられないでいる。
｢仕方ないよ…ね…｣
『今日会える？話したいことがあるんだけど』
現実を留守にしていて聞こえなかったスマホの通知音は、控えめな音を響かせた。
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作者名：スミレ | 作成日時：2020年2月1日 1時
