8 愛を紡ぐ音_izw ページ18
誰もいない昼下がりの病室で、事故で破損した自分のスマホを弄っていた。何か記憶を取り戻す手掛かりはないか、アルバムを見たりSNSを遡ってみたり。しかし少しも思い出すことは出来なかった。
『@qk__tti
ギターソロライブ、聴かされてます』
動画付きのそんな投稿。日付は事故の数日前だった。
動画をタップして開いてみると、弾き語りをする男性の姿が。
顔は見切れていて見えなかったが、その歌声に一瞬で心を奪われた。深くて厚みのある声。
「素敵だなぁ」
この人は誰だろうか。QuizKnockの仲間だろうか。
いつか見舞いに来てくれるかもしれないなんて思いながらSNSの画面を閉じた。
それからまたスマホの中をくまなく調べる。
するとメモの中に、何かの歌詞らしき詩が連なっているのを見つけた。
カップルの日常。身内ネタのような私には理解できない部分もあったが、サビには女の子の純粋な恋心が綴られていた。1つだけ気になったのは、そのサビの部分の最後。
『↑拓司くんに笑われるから変える!』
拓司くん、とは誰だろうか…?笑われる、とはこの歌詞を拓司くんという人に披露するのだろうか…?
この歌詞に何かヒントがあるのかもしれない。
「んー、わからない!」
スマホを閉じてベッドに潜り込んだ。目を閉じて眠ろうとするが明るいせいで全く眠れない。
「はぁ、カッコよかったなぁ」
さっきの歌声を思い出しては余韻に浸る。会いたい、なんて言ってみたり…。
その『伊沢拓司くん』に会うのは、もう少し先の話。
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作者名:スミレ | 作成日時:2020年2月1日 1時