aryt ページ20
aryt
「そろそろ帰ろうかな…」
「…明日も朝早いもんね」
「ははっ、そんな顔しないでよ」
「いや、ちがうの…ちがう、」
「なあに?教えて」
大ちゃんの重荷にはなりたくない。
だけど、さみしい気持ちは隠せない。
すごく面倒くさい人間だと自分でも思う。
大ちゃんの優しい瞳に見つめられたら、嘘はつけなかった。
「…帰っちゃうの?」
「……じゃあ、あと10分だけ」
ぎゅってしよ?って俺を優しく抱き寄せてくれた。
でもあと10分かあ。
ああ、もう3分経った。
「明日は何の仕事?」
「ドラマの撮影だよ」
「あーね、どんな感じ?楽しい?」
「楽しいよ、とっても勉強になる。でもやっぱり、みんなと一緒の方が楽しい」
「それはわかる、俺も舞台やってたときめちゃくちゃ思った」
「いいなあ、大ちゃんは明日いたジャンのロケでしょ?」
「そうだよ」
「やまとかに会えるんだ」
「ははっ、とか言ってるけど夕方には雑誌の撮影じゃん」
「じゃあやまとはずっと一緒なんだ…」
「もう、裕翔は寂しがりやだなあ」
「…そうだよ、俺は寂しがりやだもん。大ちゃんいないとさみしいもん」
「ふは、帰りづれぇ」
帰らないでよって言いたいけど、俺がいたら休まらないのもわかってるし、あーもう素直じゃない自分も嫌だし、なんかもう全部やだ。
「じゃあ、本当に帰るね」
「…うん」
「最後に」
おいでって呼ばれてそばに寄ると、くちびるが重なった。
名残惜しく離れていく大ちゃんの体温。
頑張って笑いながら手を振り、見送った。
バタン、とドアが閉まった音があまりにも大きく俺の寂しさを倍増させる。
今日1日一緒にいられたから、なおさみしい。
さっさと寝てしまおう。
そしたら、明日が早く来る。大ちゃんに会える。
ピンポーン
寝室に向かっていた頃、チャイムが鳴った。
時刻は23時過ぎ。
こんな時間に誰だ?
恐る恐るモニターを覗くと、
「だ、いちゃん…?」
「雨降ってきたから傘貸してくんない?」
「それは運が悪いね、いいよ、下まで行く」
「ありがと、待ってるわ」
急いで傘を持ってロビーに降りた。
「だいちゃ、っ…?!」
突然抱きしめられて心臓が止まった。
「ねえ」
「な、なに…」
「雨降ってきたから帰るのやめたって言ったら、怒る…?」
「………!……怒らないっ!!」
「うぉっ、くるしっ」
大ちゃんとまだ一緒にいられるなんて、また明日もてるてる坊主をひっくり返しちゃおうかな。
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作者名:レン | 作者ホームページ:https://twitter.com/_15957
作成日時:2021年11月15日 21時