顔も知らない彼女〈フロイド・リーチ〉 (ページ9)

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おかえり、愛しかった記憶の君へ。ページ9

「え、いま、なんで、、」

今、フロイドさんて、言った？

そんな、わけ、ない、

だって、それじゃまるで――――――、

「私のために、ありがとうございます」

バッ、と振り返って、小エビちゃんの顔を見る。

小エビちゃんは、寂しそうに、でも優しく笑っていた。

その顔を見て、オレは確信した。

あぁ、間違いない。

記憶、戻ってる、だってこれは、

確かに、“記憶の中の彼女”だ。

「な、んで…？」

どうやって、戻ったの？

半ば放心状態で聞くオレに、小エビちゃんは伏し目がちに答える。

「すごい嵐の日に、フロイドさんが泊まりに来ましたよね。あの次の日から、急に記憶が戻ったんです」

脳裏で、光る空が思い浮かぶ。

てことは、もしかして戻ったのって―――――――――、

月に照らされながら眠る小エビちゃんを、ふと思い出した。

彼女に、だれにも言えず落とした、あれ―――、

「……なんだよ、それ」

ひとりごちてみる。小エビちゃんは頭にハテナマークを浮かべてるみたいに、こちらを見やって首をひねった。

それって、まるで、

「王子様、じゃん」

あんなに、傷つけて逃げ回ったのに、

こんな、一瞬の気の迷いで、君が目覚めるなんて、

「フロイドさん、ありがとうございました。すみません、本当に」

泣きそうな顔をして、彼女は言う。

オレもなんだか泣きそうになった。

「もう、……戻っても、突き放す、よてい、だったのに、」

泣きそうになったと思う頃には、既に泣いていた。

頬に涙が伝う感じがする。あは、なにこれ。

泣いている顔なんて見られたくなくて、小エビちゃんの肩に、顔を押し付けた。

なんだか、思い出さなきゃいけない、気がする。

「………おかえり、」

「すみません、でした………っ」

なにか、とてもだいじな、ひと。

そこにいる。

「もう、解放、しなきゃって…っ、おも、ってっ、たの、にっ」

あぁ、そうだ。

「………あのね、」

君の名前は――――――――――――、

「――――――Aちゃん、だいすきだよ」

それを聞いた彼女は、泣きながら笑ったのだ。