顔も知らない彼女〈フロイド・リーチ〉 (ページ5)

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造作もない話をするならば、少しだけ傍にいて。ページ5

「あー、雨……」

ぽつり、水滴が肩に当たった。空を見上げると、雲は薄黒く、ゴロゴロと鳴る音まで聞こえる。

オレは人魚だから、雨なんか大丈夫だけど、雷はちょっと勘弁してほしい。

そろそろ、戻ろ。

すくっと立ち上がり、オレは校舎に戻った。

「ん、？」

モストロ・ラウンジでバイト中。

ふと、窓にアザラシちゃんがうつってるのが見えた。

…なにしてんの、ひとりで。

そう思って、オレは訝しげにそこを見やった。外はどしゃぶりの雨なのに、アザラシちゃんはそんな中で、何かを探しているみたいだった。

聞こえないけど、多分、誰かを呼んでいる。

雷に打たれたら、アザラシちゃん死ぬんじゃね？

そんなことがよぎって、オレはモストロ・ラウンジを出た。

出る途中、すれ違いでホールに入ってきたアズールにぶつかる。

「ちょ、……おい、フロイド！？どこへ、」

「なんか困ってるっぽい！」

全く要領の得ない説明に、アズールは「へ？あ、オイ！」と引き止めようとするけど、オレは小走りで、外に向かう。

その瞬間、空がピカリと光った。

「アザラシちゃん、なにしてんの！」

「ふなぁ！！Aがっ、いないんだゾ！」

「はぁ！？？」

ひどく焦った様子で、オレに答えるアザラシちゃんは、顔色が悪かった。

たぶん、長時間雨に曝されていたせいで、体温が下がっているのだろう。耳から出る炎も弱々しい。

チッ、とオレは舌打ちをして、「心当たりは！？」と、半ば怒鳴りつけるように、彼に聞いた。

「全部探した！！でもいないんだゾ！！！」

「クッソ、なんで…」

雨の勢いが増す。痛いくらいに、オレの身体を打ちつけた。

目を凝らして、周囲を見渡す。暗くて、よく分からない。

「こっち！」

アザラシちゃんを抱えて、オレは走り出した。

「っ！」

「A〜〜！！ふなぁ〜！」

「グリム…！フロイド先輩…！」

アザラシちゃんが小エビちゃんに飛びつく。彼女もオレたちと同様に、雨に濡れながらオレらを探していたらしかった。

ゴロゴロ、空が鳴く音がして、オレは小エビちゃんたちに言った。

「早く！雷が、ヤバい、」

「あの、でも、先輩はっ、」

「オクタヴィネルからここじゃ大分遠いんだゾ！こんな中帰るの危ないゾ！？」

確かに、言う通りだ。時間もかなりかかってしまった。

また、空が光る。

小エビちゃんと、目が合った。