最初のはなびらをひとつだけ ページ4
「あー、ハラ減った」
食堂。
ジェイドはふふ、と笑って、オレの半歩後ろで歩く。
飛行術あったし、オレは腹を空かせて食堂にいた。
前のほうで人混みが出来ていたので、ジェイドとそちらへ寄った。
何食おっかな、そう思いながら、食堂のパンを眺めた時―――、
「え？」
「ん？」
………なんでいんの。
小エビちゃんが、オレの真隣にちょこんと、いた。
肩にはアザラシちゃんを乗せて、そこに。
オレは見なかったことにして、すごい勢いで首を捻る。
オレがせっかく無視したのに、オレの隣で、律儀にジェイドは「おや。Aさん、こんにちは」と挨拶をした。
「どうも、」小エビちゃんはぺこり、頭を下げて返す。
…だから、会わなくていいって言ってんじゃん。
前は毎日合同授業にならないかな、と思ってたぐらいだったのに、いざ避けてると会いまくるのは、マジでなんで。
ガン無視を決め込んだオレの隣から、ぽそりと小さな声が聞こえた、ような気がした。
「フロイド・リーチ先輩も、どうも、」
「は？」
「あ…、」
え、なんなの？
錬金術の授業。また、１年Ａ組と合同らしかった。
小エビちゃんはなんだか申し訳無さそうにしている。
「チッ、」
オレは舌打ちをして、やっぱりガン無視。
罰が当たったのだろうか、適当にせんせぇに席を決められ、オレと小エビちゃんはしっかりと、隣の席になった。
席の一番端に寄って、小エビちゃんと全力で反対方向を向きながら、オレは授業を受けた。
「……ッチ、」
「……」
廊下で。
「あ？」
「っ、」
モストロ・ラウンジで。
「おい、」
「……」
魔法史の授業で。
とにかくオレたちは数日間、無駄に会いまくった。
その度にオレは不機嫌そうな態度を見せて小エビちゃんを無視。時折舌打ちをしたり、罵倒をする。
小エビちゃんは肩をビクッと揺らしたり、「ごめんなさい、」と謝ったりしてた。
小エビちゃんは、たぶんなんでオレがこんなに小エビちゃんに当たりが強いのか、分かってない。
隣から見える小さな肩は、いつも震えていた。
彼女は、オレなんか思い出さない。
「どけよ。もっと離れろ、気持ち悪い」
少し寂しそうな瞳が、静かに潤む。「ごめんなさ、」と、また小さな謝罪が聞こえた。
最 低。
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作者名：かくも。 | 作成日時：2023年8月29日 16時
