顔も知らない彼女〈フロイド・リーチ〉 (ページ1)

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君を忘れる時が来た。ページ1

「フロイド！」

ガラガラ、やけに焦った様子で教室の扉が引かれる。

うるさいなあ、と首をひねると、視線の先には慌てたような、なんか間抜けな顔をしたジェイドがいた。

「Aさんが、魔法にかけられた」

「…は、？」

言葉を、咀嚼して、飲み込むのに、時間がかかった。

オレが眉根を寄せると、息の上がったジェイドはぐ、と申し訳無さそうに、目を伏せた。

勢いに任せて、教室を出る。

扉前に突っ立っていたジェイドに思いっきりぶつかって痛えけど、そんなこともぜんぶ、忘れて、走った。

どこ。A、どこ、

廊下を走る、必死に目を凝らして、手前の角を曲がると、そこに人混みを見つけた。

金魚ちゃんやカニちゃん、アズールがいるのが見えて、そっちに駆け寄った。

輪の中には、A。

壁に寄りかかって、座って休んでいるみたいだった。

カニちゃんが、Aに必死に謝っている。

「A…っ、はぁ、よか、った、」

後ろから、ジェイドが走る音が耳に入った。

どうやら、オレを追いかけてきたらしい。

オレは、Aが一通り無事なのを確認できて、ひどく安心した。

ほっ、と、息をつく。Aと、目が合った。

「A、大丈夫？ケガとか、して、ない？」

なにがあったの？続けてそう聞こうとして、口を開いたとき、先にAが喋った。

「あの、すみません。……どなたさま、でしょうか、」

息が、止まったのかと、思った。

呼吸をしようとしたまま止まったせいか、ノドからひゅうっと変な音がする。

オレは、今、どんな顔を、

「…何を、言っているんだい？A、彼はフロイド・リーチ。君の、大切な人だろう？」

「おい、監督生？なんの冗談だよ、」

「ジェイドのことは認識できてましたよね？Aさん、本当に、フロイドが誰か分からないのですか？」

口々に、みんながAに声をかける。

オレは、まだ、息も吸えないでAを見ていた。

でも、次に、Aの口からこぼれた言葉に、目を見張る。

「えっと……、フロイド・リーチ先輩？ですか？」

『フロイドさん』

頭の中で、オレの名前を呼んで、優しく笑うAが蘇った。

そうか、彼女は。

「…そうだよ。よろしくね、“小エビちゃん”」

お別れのときが来たみたいだ。