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はぁ、という溜め息が、この場に充満する。
甘ったるいスイーツの匂いとコーヒーの苦い匂いが混ざって、むせ返るような気がした。
「君、五条さんの差し金のくせに、何も聞かされてないの?」
「ンー?呪詛師デショ?一家全員」
「いや、違うから。………あんまりにも過去の話、しないでよ」
湊瀬先輩は首を振る。話が噛み合っていない気はしているが、取り敢えずまた、また肩をすくめた。
はぁ、という溜め息。これで何度目か知らないが、その息はコーヒーに溶けて、跡形もなく消えてくれる。
「………確かに僕は呪詛師だよ、呪詛師だったよ。けど、それはもう過去。今はもう、呪詛師として生きるつもりは毛頭ないから」
「どうだカ。『人を消す呪詛師』デショ?そンな強力な術式持ッテルなンて、絶対危なイと思いマスガネ」
「なにそれ………もう会心したんだってば………今更どうしろって言うのさ……」
「先輩ノは、ドーイウ術式なンデスかー?」
そう聞く俺を不思議に思った様子で、けれど湊瀬先輩は律儀に詳細を教えてくれた。
「僕の術式は、
「ヘェー………さすが呪詛師ッテ感じノ術式デスネ、スゴーイ」
「………煽ってるの?言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなよ」
「イイヤ、別に?ただ、なンで悟くんは、アンタを宮城高専に呼んだノカナッテ、疑問でネ」
「………そんなの、僕が知るかよ」
湊瀬先輩はそっぽを向き、コーヒーを啜る。
まぁ、そりゃそうか。後で悟くんに聞いてみよう、と、俺は少し喋りすぎた喉をいたわるように、喉仏を撫ぜた。
「………僕は、何も知らないよ。知らないけど、」
ぽつり、湊瀬先輩の声は、この澄んだ空気を汚さずに生きていたのだ。
「この高専で出来ることは、全部やるつもりなの。誰かと関わって、満足いくように生きるつもり。それじゃ、悪い?」
椅子を引き、立ち上がりながら、真っ直ぐに、俺を見つめる瞳。
カフェの戸を引き、出ていく湊瀬先輩を見やる。ふと机に視線を戻すと、白く小さな容器が置かれてあった。
――――――なんだよ、甘党じゃねぇか。
テーブルの上のガムシロップと俺は、人気がなくなるまで黙って二人きりで、顔を見合わせていた。
これが、元呪詛師・湊瀬輪廻の『聲』なのだ。
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作者名:かくも。 | 作成日時:2024年2月13日 17時