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この後用事があるらしい佐和北先輩を見送り、俺は悟くんと2人っきりになった。
今は、新しく作られた寮にいる。
悟くんはお昼ついでに、俺にパスタを振る舞ってくれた。
「どぉ？いつものと味、変えてみたんだけど」
「………ン、イや、美味しイ」
「そか。なら良かった。いっぱい食べて良いからね」
くしゃり、と、大きく骨ばった手が俺を撫でつける。ひどく温かくて、思わずまた、喉がずきりと痛んだ。
ちいさく、一口ずつゆっくりパスタを運んでいく。時々ちらりと、悟くんが食べている姿をカンニングして、見様見真似で食べながら。
「ごちそうさまー」の声とともに、悟くんが先に食器を片付ける。俺はカンニングする相手もいなく、どう食べていいかわからなかったので、結局半分くらい、パスタを残してしまった。
申し訳なさと喉の痛さで、何も喋れない。悟くんは黙って、俺の頭を撫でてくれた。
「ココア淹れるけど、融佑も飲むー？甘くないやつ淹れるからさ」
「ア………じャア飲む」
「おっけー」
悟くんが共同キッチンでマグカップを持ち、ココアの粉を入れて、ココアを作っている。まだ、喉が痛い。
「ア゙ー……」と気持ち悪い声で呻きながら、俺は自分の喉を触った。
今すぐにでもこの喉が、潰れてしまえば良いのに。
今日見たばかりの悪夢がフラッシュバックする。口がないからと言われ続け、喋れば、食べれば殴られ蹴られする悪夢。
そんな生活が、10年も。
考えるだけで恐ろしくなってしまう。あぁ、俺は、まだ、
「お待たせー、融佑」
キッチンから、悟くんが戻ってくる。両手にはマグカップ。ココアからは、ほんのり湯気が見えていた。
その瞬間。俺は悟くんに勢いのまま抱きついた。
「うわっ、え、！？ちょ、おい、融佑？」
驚いた悟くんが無下限を解く。と同時に勢い余って床に座り込んだ。マグカップのココアは溢れ、マットレスの素地を濡らして嘲笑っている。
「さとる、くっ、俺、喉、むり、っ、無理、」
「………ん、どうした？融佑、なんかあったの？」
優しく頭を撫でられる。何回目だろう、このやりとり。瞳からはぼろぼろと、絶え間なく涙がこぼれた。
「俺、の゙どい゙だい゙、っ゙、のどいたい、のにっ、のど、潰して、たすけで、ぇっ゙、」
「………大丈夫、大丈夫だからね」
優しい手のひらに、また泣いてしまう。あぁ、なんて馬鹿。
これが、優秀児・赫谷融佑の『聲』なのだ。
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作者名：かくも。 | 作成日時：2024年2月13日 17時
