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ガチャガチャと、キッチンで料理をしている音が、リビングにも響く。
俺は先輩の側にいても特にやることがないので、ソファに凭れかかり、ただひたすらにボーッとしていた。
喉の痛みはまだおさまらない。
佐和北先輩が何を作るのかは知らないけど、取り敢えずお腹が減っているし、食えたらなんでもいいかという精神である。そりゃあ激辛がいいけど。
喉仏が隆起して、まだひりひりとする。もはや何かの病気じゃねぇかとは思うけど、残念ながらないので思考停止。
耳に入ってくる調理の音は聞いているだけでも幸せだ。と思うと同時にいい匂いが鼻をくぐって、部屋全体に充満する。匂いだけでは何を作っているのか、よくわからなかった。
目を閉じるとまた寝てしまいそうだ。瞼を頑張って開き、眠気覚ましに先輩に質問を投げかけてみた。
「先輩、何作ッテンのー?」
「んー? 普通の朝ごはんだよ? ご飯と、お味噌汁と、魚。それと副菜もね」
「………辛いモンはー?」
「ないよ。そんなに喉が痛そうな声してるのに、食べさせるわけないでしょう」
苦笑する先輩の声が聞こえる。まぁ、分かっていたことだ。この人はそういうのを、ちゃんと気にする人だ。
また、喉がずきりと痛む。
「はい、いただきます」
「………イタダキマース」
手を合わせてから、箸を持ち、作られたご飯たちを改めて見てみる。
確かに普通の朝ごはんのラインナップだ。けれどどれもとても美味しそうで、光が反射してきらきらしている。
佐和北先輩はその小さなくちで、上手く取り分けた魚を咀嚼する。音はなく、礼儀正しい。
その様を黙って観察してから、ようやく俺は口に小さく切り分けた魚を運んだ。
まだ、不安になる。
口がないから、どうやって物を食べればいいのか、咀嚼すればいいのか。飲み込めばいいのかが、よくわからなくなる。どれが正しいやり方なのか。
取り敢えず、魚を噛んでみる。歯が上手く切り身に刺さっている感じがしなくて、すこし焦った。やがて歯を突き立てる箇所を見つけ、そこに犬歯を刺して、噛む。
赤ちゃんが行うようなたどたどしいその行動に、佐和北先輩の声が降ってきた。
「そういえば、融佑くん」
魚を噛みながら、顔を上げる。と同時に、喉仏が隆起してずきずき、と喉が痛んだ。
「今日宮城高専に行って、五条さんのお手伝いに行くからね。支度しておくんだよ」
喉がいたい。何もこたえられずに、ただ、黙って頷く。
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作者名:かくも。 | 作成日時:2024年2月13日 17時