└ ページ17
.
「このアバズレが………っ、いい加減にしろ売女！！！」
痴話喧嘩？
男の凄まじい怒号を聞いても、俺の頭に浮かぶのはそんな馬鹿みたいな感想だけだ。誰だ、上層部のお爺ちゃんなんて悪趣味な奴と付き合っているのは。
まだ、続けて怒号、叫び声が鳴り響いている。おそらくすぐ近くの障子からだな、と聞き耳を立てた。
ひとつずつ、障子を確認しては、違う、これも違うと耳をすませる。ぶっちゃっけ盗聴だとかは色々あるだろうが、もしカップルの痴話喧嘩でDVとかになってたらしゃーなし、これは仕方のない事だと自己暗示をして。
何度めかの障子に聞き耳を立てた時、ちょうどその瞬間に今までで1番デカい怒号が、真っ直ぐに俺の耳を貫いた。
「お前のような甘ったれた売女に儂が助言してやってるのじゃぞ！！！？ なんなんだ、その態度は！！！！」
「ッ―――――〜〜〜…………、耳、ブチ壊れタ………痛ッ゙でェ………、」
同タイミングで障子に耳を近付けていたせいで、その大声をもろに喰らってしまった。ただでさえ俺は聴力が他人よりも良いので、耳鳴りまでもが同時にしてくる。耳の奥の骨がまだ震えて痙攣しているみたいだ、いかんせん鼓膜が痛い、痛すぎる。
うつむきながら耳を押さえていると、いきなり障子がスパァンと開いて、さすがにビビる。え、やばいおわった、と思わず言葉がこぼれ出そうになるが、
「全く、時間を無駄にしたのう………」
とかなんとかお爺ちゃんは呟いて、俺のいるほうには特に見向きもせずに、反対側へ歩いていった。
助かった助かった、耳は死んだけど。
「時間無駄にしたのはこっちの台詞だっつーのよ。いい年こいたジジイが何やってんの、ダセェわね」
ふー、と息を吐く音とともに、凛としたその声が響いてきた。芯のある、けれど女性らしい力強い声。そちらの方向に首を回し、視線を移してみると。
煙、煙、煙。俺の視線の先には薄い煙が立ち上っている。あぁ、煙草。
紫色の切り揃えられた髪を揺らしながら、ピンクを奥から覗かせる。タレ目の双眸は、普通であれば温厚さを感じさせるのに、その人からは何故だか別の雰囲気を醸し出していた。
………つか、誰？
「ん、…………あら、何よ。アンタ誰？」
こっちの台詞ッス、パイセン。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かくも。 | 作成日時：2024年2月13日 17時
