猫被り・榊宮紫弦の『聲』 ページ16
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ポケットに入っていた携帯から、特殊な発信音が鳴り響いた。
久し振りに聞いた音。その音を聞き、俺は、あー………と僅かに眉をしかめ、舌を鳴らしたくなる衝動に駆られる。ついでに髪もくしゃくしゃと掻いた。
舌打ちを表立ってくれてやろうかとも思ったのだけれど、それすらもなんだか面倒くさい気がして、はぁ、と小さな溜め息をこぼすだけに落ち着いた。
紛れもなく、上層部からの呼び出しであろうその発信音の余韻が、まだ頭にぼんやりと響いている。イヤーワームになる前に、スマホから着信履歴をぶち消して、重い足を引きずりながらもある場所へと向かった。
「…………ドーモ。オ久し振りッスねェ」
「いやに遅いぞ、赫谷。呼び出しから30分もかかっておる。もう少し早く来ることなんざ出来たろうに」
「スミマセーン。オレは登山ノ時にャ景色モ楽しム派でシテ」
「……まぁ、良いじゃろう。そこに腰掛けろ」
「ウィーッス」
障子からは低く、嗄れた声が届いてくる。姿は見えないが、此処に居るのは誰も彼も老害老害老害。心なしか酸素も薄いじゃねぇかと、やや被害妄想強めに八つ当たりをしてみる。そもそも来る気がなかったことは伏せておいた。
上層部のお爺ちゃん達からは、「優秀」と正式に思われているお陰か、生意気を言っても大したことにはならない。むしろ優遇されているのか、ソファまで出し、腰掛けるよう促すなんてね、孫じゃねぇんだからと言いたくなる。
言われた通りにソファに浅く腰掛けると、お爺ちゃん達は間延びしながら話し始める。
え? その話の内容はなにかって? もちろん割愛だよ、なんせ " 俺 " に関わることなんだから。
「はァ、話長ェ…………、」
疲れた首をいたわりながら、俺はようやくソファから立ち上がり、伸びをした。
相変わらず話の長いお爺ちゃんだ、要約ってもんを知らないのだろうか。どうせそんなことを言っても無駄なのだけれど、言わずにはおれない。そのくらい、話がとにかく長い。
聞いててただでさえ気分が良くなる話ではないのに、余計に疲労が貯まってしまった。
この後の任務のことを危惧し、帰って少し寝ようという結論にたどり着く。それと同時に、俺は歩を進め始めた。
耳が詰まったかもしれない、と耳をすこし触りながら歩く。あー、疲れた、
そう思った、瞬間、凄まじい怒号が俺の耳をつんざいた。
「この阿婆擦れが………、いい加減にしろ売女!!!」
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作者名:かくも。 | 作成日時:2024年2月13日 17時