元ヤンキー・唐猫ヤマトの『聲』 ページ11
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朝は嫌いだ。
瞼を上げると、途端に外気の寒さを感じて、再び布団に籠もる。最近冷えてきたなぁ、だなんて、最後に言ったのはもう何ヶ月前だろうか。冷えてきた、だなんてそんな易しいものでは到底なかった。
喉にこびりつく、ずきずきとしたしつこい痛みを無視するようにして、俺は重い腰を上げた。寮の天井なんて見ていてもつまらない。
寝間着の黒いTシャツをそのままに、洗面台で顔を洗い、外へ――――――出る。
ドアを開けた、途端に入り込むのは凄まじい冷気。その瞬間肩が大袈裟なくらいに跳ねた。だって、それぐらい、寒い。
もうすでに鳥肌が立っている。自分を守るようにして両手で身体をさすり、白い息を吐きながら、俺はあたりを見回した。
眠気を覚ますついでに散歩でもしようかと思い立ったけれど、これじゃ駄目だ。こんなに寒くてまともに足が動くだなんて思えない。
戻ろ、とものの数十秒で部屋に戻ることを決意した俺は、寮のドアを開けようと、手をかけた。
「お届けもので〜すっ! 唐猫宅急便ですよ〜、ご注文の品をお届けに参りましたぁ〜!!」
同時に聞こえてきたのは、陽気でよく通る声。それから、聞き覚えのない単語。
唐猫宅急便など、初めて聞いた。猫違いであれば知っているが、パクリ会社か?
そう思い、声のしたほうに顔を覗かせる。やや遠い位置に、2人の先輩が立っていた。
一人、顔の知らない先輩が小さな小包を、もう一人の先輩から受け取っている。小包を渡した、黒髪の先輩はまるで猫のように、にゃはは、と笑ったのだ。
「どうも〜!!唐猫宅急便にお金を入れてくれて、ありがとねんっ☆ 助かるよ〜!!」
「いや、
「いーじゃんいーじゃん!! 意味は同じなんだからさ〜、にゃはっ!利用してくれてありがとね〜俺っち助かる!センキュー!」
また、猫のように口角を上げて笑う、その人。
若干の灰色メッシュの入った黒髪が風に揺れる。先程までならば、寒い寒いと喚いていたであろうその風は、自由人そうな雰囲気を醸し出す、その、" 猫 " の先輩に、なぜだかよく似合っていたのだ。
三白眼の細い瞳を吊り上げ、右目の下に鎮座する
その先輩のくちもとから、八重歯がこちらを見ていた。
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作者名:かくも。 | 作成日時:2024年2月13日 17時