優秀児・赫谷融佑の『聲』 ページ2
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喉が痛くて、目が覚める。
瞼をゆっくりと開くと、そこには見慣れた自室の天井があって、思わずチッ、と舌打ちをしたくなった。
が、舌は言うまでもなく鳴らない。鳴ってくれない。喉の痛みは限界に近かったのだ。
しばらく天井を見つめていても痛みが治るということはなく、むしろ舌が痺れてきて余計に痛くなってしまったので、諦めて身体をベッドから起こした。
扁桃腺がいやに主張してくる。決まって悪夢を見た日はこうなるのだと、俺はもう既に知っていた。
あんな夢、もうすっかり脳から消し飛んだのだと思い込めていたのに。
「口がない」。今日見た夢で飽きるほど俺に降り掛かったその言葉は、まるで呪いみたいに、喉に張り付いて離れない。逃さまいと俺の舌を絡め取り、ぐっちゃぐちゃの嫌悪感を俺だけに浴びせてくる。
はぁ、と人知れず溜め息をついた。喉仏に触れてみる。特になにもなく、ただぼこりと飛び出た喉仏が隆起するだけだ。
それだけで、叫び出したくなるくらい、痛いのに。
ベッドから降り、洗面所へ向かう。洗面所の電気を煌々とつけ、鏡の中の自分と目が合った。
瞼が重いことなど一瞬で見て取れる。普段の数倍は不機嫌そうで、なんだか幸が薄そうな顔だな、と自分でも思った。
顔を洗い、タオルで拭く。一連の流れは脳死状態でも行える。便利だよな、日頃のルーティーンって。
朝ご飯などはない。悟くんが朝っぱらから任務で居ないから、朝飯は食えない。今日もお預けだ。だが腹は先程から正直で、音を立てて食べ物を欲している。
気分を紛らわそうか、とそこらへんに散乱している読みかけの雑誌を手に取り、適当なページをめくっていると、
ピンポーン
「やぁ！ ヨウちゃんが来たよ、融佑くん！」
「………見リャあ分かリマスワ」
玄関の扉を開けると、朝だというのに普段通りのテンションで笑う
休日だというのに神父服だ。そしていつも通りの眼帯と、くちから覗くギザ歯。
彼女のベタ塗りの瞳が、俺はあまり好きではなかった。俺がなんの用ですかと尋ねる前に、佐和北先輩が口にする。
「可愛い後輩が餓死してたらいけないでしょ？ 融佑くんは、今日も不健康だと思って」
「………なンの確信でスカ」
「ふふ、声ガラガラだね。ご飯、私が作るよ」
にっこり笑う佐和北先輩と同時に、俺の腹がまた、声を上げる。
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作者名：かくも。 | 作成日時：2024年2月13日 17時
