異国の獅子～弐～【赤髪の白雪姫】 (ページ8)

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純白の白鳥ページ8

イザナ兄さんも随分と意地悪なことをするものだ。

「くだらない王子の出来上がりだ」だなんて言って
白雪さんは己の芯をしっかりと持っている人と思うのだが。
イザナ兄さんの考えていることはたまに分からない。

私は先ほどイザナ兄さんに言われた通り部屋の確認をしてきた。
あとは……挨拶。

私は少し前から執務室の前にいるのだが、扉をコンコンと叩くだけなのに、どうしてこんなにも時間がかかるのだろう。

ガチャ

「！？」

目の前に広がる銀髪、青い目。

「な……っ」

ゼンの目が丸くなる。

「A！」

「へ、ちょっ、行き成り何を……少々待ちなされ！」

目の前に石鹸の香りが広がる。
私が上にある青い瞳を見上げると、にこやかにゼンが笑う。

「お前、ほんっとに変わってないな！」

「変わりすぎて気づかなかったのはぬし様でありんす！」

まったく……あの時も先ほども名乗るまで、というか名乗っても気づかなかったじゃないか。

「なんで気づかなかったんだろうな」

「わっちにもわかりんせん！」

心底不思議そうに聞いてくるものだから私も思わず声を荒げる。
頭を撫でられたのが不服だと言わんばかりに私がむすっと頬を膨らませる。

すると、ふと思い出したかのようにゼンが私の腕を掴む。
そのまま腕を引っ張られ、私は執務室に入る。
中央にある机の上から、ゼンが桃色の花の模様が彫られた手のひらの大きさの缶を手に取った。

「ほい」

ゼンに促され口を開ける。
口の中にあまい桃の味が広がる。

「飴菓子お前好きだろ？」

この兄弟は、甘やかし方を熟知してるな。
私はコロコロと口の中で飴菓子を転がす。

すると、ふと横からわざとらしい咳払い、ミツヒデの声がした。

「久しぶりです、A様」

さま……様？

「ン！」

左手を腰に当て人差し指でといつめるような仕草をして口を閉じたまま声を出すと、少し慌てたようにしてミツヒデが言い直す。

「あ、あぁ、すまんすまん。A、久しぶりだな」

私がよろしい、とでもいうように満足そうに笑うと、ミツヒデも笑う。

「ゼン殿下、そちらの方は」

大人っぽい女性の声、反対側の横を見ると金髪の女性が立っていた。
ゼンのもう一人の従者、確か木々さん。

「木々は初対面だよな、俺と兄上の昔からの友人だ、彼女の前ではいつも通りの呼び方で平気だ」

「うん、わかった。木々です、よろしく」

「Aです、以後よろしく」

飴玉をガリっとかじって挨拶をする。
桃の香りが、口内を満たした。