異国の獅子～弐～【赤髪の白雪姫】 (ページ5)

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赤青の炎ページ5

憎悪の炎が灯った赤い瞳の矢が木々の合間に走らされる。
木の上にいるその男は裏家業をやっていたのにもかかわらず、気を抜いているのかその明らかな殺意に気が付いていない。

彼女は黒光りする両刃(りょうば)の苦無(クナイ)を、ほぼ直感的に計算して投げつける。
勢いをつけ黒い影となり空気を裂き飛んでいく苦無が、その男の頬をかすめて赤い筋を作る。
そのまま木に当たり跳ね返った苦無を男が手で掴む。

いきなりのことに驚いている男は頬を触りそこで初めて、怪我をして血が出ていることに気がつく。

鳥がバサッと木々から飛んでいく。

その、殺意に怯えてしまった様に。

逃げる様に。

その男の視線が稲妻の如(ごと)く苦無を投げつけた本人を貫く。

獲物を狙う鷹の様に鋭い眼光を、異様な殺意を纏い佇む女に向ける。
それは仔兎などの可愛いものではない、獅子だ。

他の色全てを拒絶するような黒髪、近づけば火傷してしまいそうなほどの真っ赤に燃える赤い瞳。
それが元同業者だと気づくのに男は時間を要した。

男は、その女の名を驚愕(きょうがく)の色をにじませた声で呟く。

「次はない」そう憎々しげにつぶやいて彼女、Aは主人と歩いて行った。

「なんで、ここに……っ」

そう苦しそうに言った彼、オビの声が誰かに届くことはなかった。