綺麗がななじゅう、むっつ ページ28
夏休みに入った。まだ始まったばかりでも、課題の進捗は順調。計画には何の狂いも無い。
昼ご飯を済まして、学校の図書館に目的地を定めた。半袖のカッターシャツに腕を通して、日焼け止めを塗る。マスクはいつもの不織布マスク。本が何冊か入ったバッグを持って家を出た。蝉の声が温度を更に上げているように思う。
『あっつ……』
悪態をついてみるけど、図書館に行く事は決めてしまったため、もう諦めるという手段は無い。
もう何も考えまいと歩き始め、無心で学校にたどり着いた。校庭を走る野球部やサッカー部。校内は吹奏楽部の練習音がBGMのように響く。図書室の扉を開けて、クーラーの効いた涼しい空間に目を細める。
カウンターに本を置いて、本棚に向かった。目的は既に達したけど、しばらくはこの空間に居たいと思った。お気に入りの小説を手に取って適当な席に腰を下ろす。
物語の中で頬杖をつく男の子は、私と同じような、誰も居ない部屋に居る。蝉の声は、彼を急かした。立ち上がって、少しの罪悪感と共に廊下を走る。
『……』
衝動とはよく分からない。何が、いつ、どんな風に、人を突き動かすのか。彼は、クライマックスの場面で意中の子に想いを伝えるだろうか。バレー部の女の子は、体育館近くの水飲み場で涼を取っている。彼女が考えているのはきっと、夏祭りの事だろう。
「何読んでるんですか」
『！佐久早くん……？』
後ろから聞こえた声に振り向く。どうも、と会釈した佐久早くんは学校のジャージ姿で私を見下ろした。
『部活じゃ』
「午前部活です。家帰って飯食って暇だったんで」
『！あ、あぁ…本借りに来たの？』
一瞬、自惚れてしまった。駄目だ駄目だと自身を戒める。そんな私を知ってか知らずか、佐久早くんは私の向かいの席に座って、視線を逸らしながら息を吸った。
「…端山さんが、居ると思って」
『っ！…そ、そっか……』
「ここ、居てもいいっすか」
『うん！』
「！」
『あ、ごめん……嬉しくて、つい。私もしばらく居るつもりだから』
佐久早くんは目を見開いたと思えば表情を和らげて、近くの本棚から長い腕で一冊の本を取った。
『それ、私も好きな本』
「そうですか」
『うん。主人公の家庭環境が私と似てるから』
何気なく言ったつもりが、佐久早くんは表紙を捲る手を止めてしまった。どうしたのかと顔を上げる。
「父親が……？」
『…うん』
私は本を閉じた。
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すみた先生(プロフ) - 魅亜羅さん» コメントありがとうございます！ちょっとずつ進めていこうかなと思っていますので、気長に待っていただけると有難いです🙏絶対完結させます！ (12月1日 21時) (
レス) id: 547ebe12b8 (このIDを非表示/違反報告)
魅亜羅(プロフ) - 佐久早の恋愛のお話好きで、とても引き込まれる作品です！更新楽しみに待ってます！ (12月1日 1時) (レス) id: 5c7231855f (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - モモさん» コメントありがとうございます！！気まぐれ更新でホント申し訳ありませんが、頑張ります！！ (2023年1月13日 22時) (レス) id: 547ebe12b8 (このIDを非表示/違反報告)
モモ - この話、めちゃくちゃ好きです！続きが気になりすぎるっっ。楽しみにしています！！ (2023年1月12日 21時) (レス) @page34 id: 759a61aa3f (このIDを非表示/違反報告)
雪音くん。 - すみた先生さん» 「大人編も見たい」って意見しかないですもんね笑私としても嬉しいです(*´ω｀) (2022年5月7日 21時) (レス) id: 07fdfe6512 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：すみた先生 | 作成日時：2022年1月15日 19時
