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「珍しく若利くんの勘が外れたね〜」
「あの女……いつか殺す」
「大丈夫か?若利」
大平が、立ち尽くすばかりの俺を見つめる。2人が出て行った扉からは目が離せず、しかし胸の内を言葉にしないとどうしようもなくて、俺は口を開いた。
「俺は、何を間違えたんだ」
「……強いて言うなら、あいつを好きになった事かな」
「好き……俺はJACKが好きだったのか?」
「んー……少なくとも俺には、そう見えた」
「チョット違うかな〜」
天童が声を上げる。どういう事だ、という視線を送った。
「俺はアイツの過去とか知らないけどさ、若利くんが好きなのは、JACKじゃなくて、昔の許嫁ちゃんでしょ?」
「同一人物だが」
「体はね。でも若利くんだって分かってんじゃない?もう別人だって。あの頃みたいに話せる相手じゃなくなったって」
"好き"という感情が真実なのか、俺には分からなかった。名前を与えてはならない気がした。
朱雀が俺を見限ったあの日、俺が言った言葉に他意は無かった。死んだ男が優秀な人間である事は俺も分かっていたが、組織が回っているなら問題ないと思ったのは事実だ。
言葉足らずだったかもしれない。世間知らずだと言われる俺の事だ、誤解を招くような言い方をしたのかもしれない。……それでも、あれは正直に言ったつもりだった。こんな世界を生きるなら、それが普通だと思っていたから。
彼女は、俺よりも世界を知らなかった。
秘かに平和を望み、いつか死ぬ人々を愛していた。どうしても叶わない願いを望んでやまない彼女を、俺はずっと守りたかったのかもしれない。俺には信じる事ができないものを守ろうとする彼女が、俺にとっての光のような気がしたから。
これを"好き"という言葉で括るには俺は穢れているし、そもそもそんな言葉で収まる感情なのか。
「牛島さん、あなたは俺達の頭です。それだけは忘れないでください」
「分かっている」
〈あんたが好きだった朱雀叶多はもう居ない〉
報われて欲しいと、その痛みに見合うだけの未来があって欲しいと、俺は願ったんだ。お前が彼女の心を無くしていたとしても、今を生きるお前が、お前のために生きられるように。
温度を無くした世界で、俺だけがそう願えると思ったから。
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すみた先生(プロフ) - サラミさん» コメントありがとうございます!!気まぐれ更新でホント申し訳ありませんが、頑張ります!! (2022年8月17日 11時) (レス) id: 547ebe12b8 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - 初コメ失礼します。すごく面白くて一気読みしてしまいました!!更新頑張ってください!応援してます!! (2022年8月17日 9時) (レス) @page27 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみた先生 | 作成日時:2021年11月28日 19時