あなたは生きろというけれど ページ5
*
躊躇いもなく、ただ愛だけを携えて母親の胸の中に飛び込む。全て崩壊した関係の中ではありのままの愛しかなかった。直に終わる虚構だったからこそ、わたし達はこの瞬間、なんの柵もなしにただの母娘でいられた。
「あなたは、私がレイの母親であることに何時から気付いていたの？」
ママの心臓は、わたし達のものよりずっとゆっくりに時を進める。それが何だか、“大人”って感じがして心が落ち着くのだ。
「けっこーまえから」
わたしは舌足らずに微睡みながら答える。まるで赤ちゃんに戻ったかのように、思う存分ママに甘える。耳の奥ではまだ子守唄が響いていた。あどけなく、だけど何処か屈託した声。
「どうして分かったの？」
わたしは目の奥が焼かれるように熱くなるのを感じながら、記憶を遡った。どうして、どうしてだろうか。答えがすぐ傍にあることがわかってるからのんびりと思考する。
多分、気が付いてはなかった気がするけれど、無意識に思い込んでいた。ママとレイの血が繋がっていることを。だって似ていたから。仕草も、考え事する時の顔も、賢しげな表情も。ただ、一番似ていたのは……。
「まゆげが……」
「……眉？」
「そう……。ママとレイは、まゆげがそっくりなのよ」
一拍置いて、ママはふっ、と吹き出した。
「眉毛……っ！ まさか、眉毛で感付かれるなんてね……！ ふふッ……」
「ふふ」
「はじめてだわ、そんなこと……！」
わたしは微睡みの中にいたせいで、ママがなんでそんなに笑っていたのかは分からなかったけれど、だけどママが楽しげだったからそれで良いかと思って、同じように笑いあってみせた。
わたしはママがだいすき。
何時もわたし達の為に一生懸命なママが好き。何時か鬼に食べられるわたし達なのに、わたし達のことをちゃんと覚えてくれてるママが好き。ママに作って貰ったペンダントは、今でもわたしの首に掛かって眠ってる。優しいママも好きだけれど、怒ったママも好き。ママが怒るのは、自分の為ではなくて、わたし達の為だから。
わたし達を少しでも長く生かそうとしてくれたママが、だいすき。
だから今度は、わたしがママを少しでも生かすね。
あなたは苦しげに笑うけれど(1)→←あなたは悲しいというけれど
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鈴(プロフ) - ぱんだ(梅乃)さん» ぱんださんの繊細で、胸がくすぐったくなるような優しい文章や、整った文体、考え抜かれた伏線や展開が大好きです……。これから時間があるので、じっくり読んできます……！ (2023年1月1日 11時) (
レス) id: 45bad0c26a (このIDを非表示/違反報告)
鈴(プロフ) - ぱんだ(梅乃)さん» お久しぶりです。かなり拙い文章だったと思うんですけれど、ぱんださんに読んでいただいて恥ずかしやら嬉しいやら……称賛の言葉を嬉しく思います。ここで話すことではないのは承知ですが、新作にしおりを挟ませていただいています。 (2023年1月1日 11時) (レス) id: 45bad0c26a (このIDを非表示/違反報告)
ぱんだ(梅乃)(プロフ) - 鈴さん、お久しぶりです。久しぶりに鈴さんの文章が読みたくなって読ませて頂きました。「あなたは母親ではなかったけれど」のお話が本当に、本当に好きです。相変わらず綺麗な文章で、特にひらがなに開いている言葉が最高でした。素敵な物語をありがとうございました！ (2022年12月31日 3時) (レス) id: 40823cea90 (このIDを非表示/違反報告)
鈴(プロフ) - 魔朝さん» 返信が遅れてすみません。コメントありがとうございます。泣いていただくほどに感情移入をしてくださったようで、作者冥利に尽きますね……。読んでくださり、本当に感謝です！ (2021年4月3日 16時) (レス) id: 74247163ce (このIDを非表示/違反報告)
魔朝 - もう………ホント………号泣……… (2021年2月21日 22時) (レス) id: b9388c91d5 (このIDを非表示/違反報告)
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