水色のカルテ５ (ページ34)

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ひとつだけページ34

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全てをﾁｬﾝﾐﾝに話せないのなら。

その記憶を消す事が、私のするべき事だと思えた。

KH「……引き算なんて、俺でも忘れてたのに(笑)」

髪の毛をくしゃりと触りながら。
ｷｭﾋｮﾝ先生はのけ反るように、背もたれに体重を掛ける。

KH「覚えてないんですか。」

　「はい。」

KH「…そ。なら教えてあげる。
あの夜、俺がAさんに…」

　「わーわーわー！」

咄嗟に、叫んで言葉を遮るという古典的な手段。

ｷｭﾋｮﾝ先生は噴き出すと
お腹を丸めてくつくつと笑っていて。

KH「それ、覚えてんじゃん…(笑)」

　「い、いいえ。」

KH「……ん、おっけい。分かった。分かりましたから。」

ｷｭﾋｮﾝ先生はそう言うと頷いて。

「あ、そうだ」と思い出したように
鞄から茶色の手帳を取り出した。

…？

ﾍﾟﾗ…

開かれた最後のページには
見覚えのあるシールが貼ってあって。

それは……
リラッねこミュージアムで貰った、景品のステッカー。

KH「この子はどうして片耳が折れてるんですか。」

　「…？ああ、その子はリラッねこの双子の妹なので。」

KH「えっ双子？まじ？
うわぁ……奥が深いですね、リラッねこ(笑)」

そう言うと、興味深げにしげしげとステッカーを眺める先生。

これでいい。
これがいい。

余計なお世話かもしれないけれど。

こんな風に、ｷｭﾋｮﾝ先生の楽しそうな表情が
少しでも増えていって欲しい。

　「では、失礼します。」

KH「うん。お弁当ありがとう。美味しく頂きます。」

頭を下げて。

ドアノブに手を掛けると、先生が私の名前を呼んだ。

KH「……一つだけ、聞いてもいいですか。」

　「はい？」

この距離感で…

ゆったりと私を見つめるｷｭﾋｮﾝ先生は
物凄く穏やかな心療内科医の顔をしていて。

このクリニックの予約が困難な理由は
やっぱり、間違いなくｷｭﾋｮﾝ先生の人柄だと思う。

KH「…もし、Aさんがﾁｬﾝﾐﾝと出会っていなかったら。
俺のことを好きになってくれる可能性はありましたか。」

　「…………」

もし、ﾁｬﾝﾐﾝと出会っていなかったら…？

予想もしていなかった質問に戸惑って。
それでもすぐに口を開いた。

　「……ﾁｬﾝﾐﾝがいないという想像が、もう、今の私には出来ません。」

ｷｭﾋｮﾝ先生の目を見て、そう告げる。

少し胸の奥の方が痛んで……

先生は数秒後「そうですよね」と小さく微笑んだ。