雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

17. 摘んだ花はもう咲かない ページ17

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「 やぶー、今日もう上がれそう？」


宏太「 あ？お前誰に言ってんだよ。当たり前だろ。」





ニタッ、と口角を上げた薮は同性でも戸惑うほど色気を醸し出しているから、つい苦笑いがこぼれた。

俺が女性だったらとって喰われそうだ。
そんな気がする。うん。









「 だよねー。じゃあ今日一緒にかーえろ 」


宏太「 ん。あーあと煙草切れたからコンビニ寄る」


「 おっけ。支度するから待っててね 」









家で確認する書類と、マックブックを鞄に入れて、前髪を手で払い薮の待つ部署前へ。






「 おまたせ！」





学生時代よくしていた集合みたいで自然と笑顔になった。








宏太「 おう………何でにやけてんだよ 」


「 えへへ。思い出し笑い！」


宏太「 ああ、そう。外ではすんなよその顔 」









ポケットから見えてるくしゃっとなった煙草のケース。吸わない俺でも分かるくらい濃いやつ。

たまに咳き込んでるから、体に悪いよと窘めてはいるんだけど……







無事にいつもの番号のを買って、早速前で吸い出した薮をジッと見つめる。

火をつける前に咥えたまま「ん？」と俺を見やる。









「 禁煙しないの？」


宏太「 今はしないつもり 」


「 体に悪いってば 」


宏太「 若気の至りだと思って見逃してくれ 」


「 …もうそんな歳じゃないでしょ 」









火が付き、煙が出る。
薄い桃色の唇から吐き出されるその匂いは何年も嗅いできたけど未だに慣れないし、たまに咳き込んでしまうことも。


薮は気遣って俺の前では基本吸わないし、吸うとしても絶対こっちに負けない。









宏太「 …腹ん中が満たされるんだよ、これ吸っちまえばよ 」









いつも、いつも俺を守ってくれる。
男のくせして弱っちい俺なんかを見放さないで横にいてくれるから、だから、余計に悲しくなるし辛くなるんだ。

義務みたいにして傍にいてくれてる理由だってちゃんと知ってる。誰のためかなんて、分かり切ってる。









心友とか、同僚とかそんなんじゃなくって、俺は薮のこと…家族だと思ってるんだよ。









宏太「そしたら心がいくら空っぽでも、いくらかマシになる 」

「 でも、やっぱ俺は薮には長生きしてほしいもん………あ…もしかして、ひかるのこと想って…」







宏太「 はは。安心しろ。アイツを思って吸うタバコと酒は不味い。そんな女々しいことしねえよ 」









…ばか。

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