雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

37. 魔法使い ページ37

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光は、昔から絵を描くのが上手かった。








( まあ！ひかくん、とっても上手ね )


( ひかるくんすごーい！)





幼稚園の頃からもうすでにその風格を表していたくらい。
お互いの似顔絵を描くとき、あいつが描いた俺は妙に透かした顔をしていて、なんか腹が立ったのを覚えてる。


見透かされるっていうのはこういうことなのかと思った。
確かそれからだ。光とよく話すようになって、仲良くなったのは。









( 八乙女くん、また絵で入選したんだって！)




小学生、中学生と順調に有名な絵画の賞を総なめしていった。

確かにあいつの描く絵は上手い。けれど、それ以上に、光の絵は不思議と目を惹いた。

魔法使いみたいだと、ずっと前言ったことがあったっけ。そしたらあいつ…照れ笑いして、薮にからかわれてたなあ。






あの頃は楽しかった。
光が天才だと、まだ、万人が気づいていなかったから。





あいつを取り巻く環境が変わったのは、中学二年の頃。





新しく来た美術のお爺ちゃん先生が、光の絵を見て腰を抜かした。


これを描いたのは君か、と言ってもいないのに当てた。
なぜ分かったんだ、と光が問うと、そのお爺さんは、







『 瞳の色じゃ。』


『 …ひかる、俺とおんなじ色だと思うけど 』




『 そういう意味じゃのうてな。この子は、天才の色をしとる 』






その時俺は心の中で焦っていた。
だって知っていたから。

あいつの母親より、担任より、誰より知ってた。
描いた絵をすぐ見せて貰ってた俺が一番、光の才能に気づいていたんだ。






でも言わなかったのは、子供ながらに察していたから。

光が枠組みにはまって絵を描くことを嫌うことを。







そして…






『 ひかるくん、といったかね 』


『 …はい 』





何となく分かっていた。

彼の才能のせいで、俺たちが引き離されるということを。









『 君はヨーロッパで絵画を学ぶべきじゃ 』









明るくも、暗くもないコントラスト。
黒いランドセルを背負った華奢な背中を、追いかけて俺は走っていた。

薮はサッカークラブでその時居なかった。








『 ひかっ…はっ…待ってって…っ』








隣に並ぶと、光の足が止まった。








『 いのちゃん…知ってたの？俺の絵が、他の人たちと違うこと 』


『 それは、…』









『 …俺が、やぶといのちゃんを置いてくって思ってたの？』



その日初めて俺は、あいつの涙を見た。

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