雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

33. 愛ある人生 ページ33

yt side







「 煙草をね、背中に、ね………」







シャツのボタンを３つ外し、肩を出した。
露わになる、肩の傷跡に彼の息を飲む音が聞こえた。







「 このザマだよ。おかげで、水着で撮れないんだ。」







「とんだ営業妨害だよ」と笑って見せると、険しかった表情がさらに険しさを増す。

いつもふにゃふにゃの笑顔を浮かべていた色っぽい顔はどこへやら。

真剣というより、怖い。








慧「 ……まだ、痛むの？」


「 これ？…いや全然。もう痛まないよ。たまに疼くけどね 」







そんな顔、させたかったわけじゃない。
あなたには笑っていてほしいのに。
俺はいつも、悲しませてばかりだ。







「 あの人のことを今更、許す許さないとか思えないし、母親だとも思わない。傷つくことすらないよ。」






体はたくさん傷つけられても、心はもうずっと麻痺しているから。
「やめて」と叫んだって「母さん」と呼んだってあの人は返事をくれなかった。





子供がいつまでも母親の面影を追っている。
そんなこと、俺には当てはまらなかった。

早く忘れたかった。早く逃げたかった。







「 早く、死んでしまいたかった 」





自分が生きてる意味なんて検討も付かなかった。



いらない、と。言われていたらそれこそ死んでいたのかも。

でもあの人は何も言わずに、無表情で背中に火のついた煙草を埋めていた。








「 でもね、今はそんなことないんだ。周りの人はみんな優しいし。友達だっているし…何より、」






ポロポロ、涙流す、優しい、綺麗なあなたの頬を両手で包む。
親指でそれを一つ一つ拭えば、彼が嗚咽を漏らしながらまた涙を流した。







「 慧さん。俺にはあなたがいる。もう、一人じゃない 」







独りでいると、思い出すから。
あなたといる時間は幸せで溢れてるんだ。








「 あなたが俺に、好きだよって言ってくれた日。それだけでもう、生きていていいって言ってもらえたみたいで幸せだった 」









自分が可哀想だと思ったことは一度もない。
世界にはもっと苦しい思いをしてる人がいる。

ただ寂しい奴だとは思ってた。
愛される喜びを、愛する幸せを知らないで生きてたから。




だから、あなたと出会って俺は変わった。
愛される喜びも愛する幸せも両方手に入れて。








「 ありがとう、俺に、愛するチャンスをくれて 」







たとえあなたが俺を好きじゃなくたって、仕方ない。






「 ごめんね、慧さん 」

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