雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

21. 嘘つきと雨音 ページ21

yt side







僕じゃダメですか、そんなこと聞くまでもなく慧さんは少し震えながら俺の手を振り払った。

涙が溢れてるのに。
抱きしめられる距離にいるのに。



雨が降っていて、あなたの声が聞こえないよ。
掻き消された好きと切なさが滲んで、もう二度とこの手を伸ばせない気がしている。



素直に想いを伝えたりなんてしたら困らせてしまうだけだと分かっているのに。

好きになっちゃいけない、そう思えば思うほど、余計に好きだと気付いてしまうこの心をどうしてくれよう。








振り払われた手は冷たいのに熱を持っていて、あなたの余韻と残り香が心を締め付ける。








『 俺だけの、ゆうとくんならいいのにね 』






呟いた言葉の意味を、教えて欲しいんです。
俺にはあなただけなのに。
好きも、愛してるさえ響いてくれない。



華奢な肩が微量に震えだ瞬間、壊れてしまいそうなくらい強く抱き寄せた。
もう一度伝えたかった「好き」が雨粒に溶けて行く。

雨の匂い。濡れた髪。冷えた体。
ぎこちなく微笑ったあなたが俺のことを押し出した。








『 慧さん……』



俯いて、俺の顔すら見ようとしない。









慧『 …風邪引いちゃうから、帰って？』






過去に囚われたままのあなたを俺は助けられなかった。

握りしめてた拳を見つめながら、もう二度とその顔を見ないで走り去った。





雨は嫌いなんだ。
あなたが泣いている声すら、聞こえないから。







『 っは、』






雨が降ると息がしずらい。
喉に詰まったままの言葉と容赦なく降り注ぐ雫が自分の心とリンクし過ぎる。

こんなに辛かったんだね、慧さん…あなたはこれを一人で、どんな顔をしてやり過ごしてたの？









傘も持たず走る俺は、芸能人だからっていう理由だけでなく不思議な目で見られる。

気にならないわけじゃなかったけどそんなこと今はどうだってよかった。







上がる息と、熱っぽい頭だけ抱いて、慧さんの涙をしっかり焼き付けた目から涙をこぼしながら走り辿り着いた先。








『 ………バカだろ、お前 』





呆れたようにタオルを持って出てきた。
腫れぼったい瞼を何度か瞬く。






『 …ゆうと、俺じゃ、だめ？』






雨が流れ星なら、あなたの幸せを願えるのにな。

そんなこと思いながら冷えた唇を重ねていた。








声が漏れる。雨音のノイズが聞こえる。
俺はあなたを想いながら、涼介とのキスに目を閉じた。

22. エゴイスト→←20. 流れ星

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す