蜜冬 ytym

012 甘い夢 ページ12

yt side







相変わらず、いや、前より少し痩けた頬に俺も手を伸ばして目線を合わせた。







「 いのちゃん、俺…」




どこまでも真っ黒で、澄んでいて、それなのに光を宿さない。

大きくてとろん潤んでて。
甘いのに冷たい、俺がずっと捉えられていた、大好きだった目。


いのちゃんはいつもそうだ。
俺の心ばかり乱して、自分は何も知らないまんま笑ってた。





その無邪気な笑顔が好きだった。
涼介に向けられる視線を、俺のものにしたかった。

いつだって守ってたつもりだった。
誰より傍にいるんじゃなくて、心で繋がってるって、そう思ってたんだけどな。









「 無理、だよ………ごめん。一緒には、いけない。」







ゆっくり、手を下ろした。
あの頃の俺とは明らかに、心境が違う。
この愛しさは家族へ感じるものと同じようなものだ。

それが、分かるようになった俺にいのちゃんは気づいているんだろうか。









慧「 …な、んで？裕翔、なんでっ」


「 守りたい人がいるんだ。」







いのちゃんの大きな目にたまる涙。
反射的に伸ばしそうになった手をぐっと抑える。
だめだ。俺にはもう、そんな資格なんてない。





俯いたまま下唇を噛むいのちゃんに、声をかけようとしたら急に顔を上げて
華奢な体が俺の胸へ飛び込んできた。








慧「 裕翔も、俺を捨てるのっ？」

「 いのちゃん…」




ボロボロ壊れてく。
いのちゃん以外を知らなかった、知ろうとしなかった俺が、初めて見た世界。
明るくて柔らかくて、温かい。

本来ならいのちゃんもそこで生きるはずなのに。









慧「 ねえっ、答えてよ…っ！」









トン、トン、っていのちゃんの拳で弱々しく叩かれるたびに胸が軋む。

その痛みは愛しさと、そして義務感が混じってた。
体に染み付いてる、いのちゃんを守るというこれまでの俺の、最早義務となってたそれが今更になって疼く。





答えようとして、口が開くけどそれがすぐに閉じる。
震えて、何も言えない。
今の俺には何かを言うこともできない。









小さな子供みたいに俺の胸の中で泣きじゃくるいのちゃんを、ゆっくり、抱きしめた。
懐かしい匂いと、鼓動、そしてあの頃の想いが俺の胸を躊躇なく痛めつける。






「 いのちゃん、あのさ…… 」



脳裏に浮かぶ、涼介の笑顔を瞬きしながら心にしっかり刻んだ。

今から俺は、もう一度、ロボットに戻るよ。

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