純白に一滴 ytcn ページ33
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「 ゆうと、おはよう 」
幼子の覚え言葉みたいに、朝起きてすぐ彼の部屋へ行ってまだ眠っているのに声をかける。
眠りが浅い裕翔はすぐに起きて、ベッドの中へ僕を柔らかく抱き入れるんだ。
裕翔の腕が、僕を優しく包み込む。
それだけで不思議に温かくて。
物理的にじゃなくて、心理的に。
彼の傍は、生まれて初めてが多い。
ここ裕翔のお屋敷へ来て、1ヶ月。
何となく居心地がよくなってきた。
執事「 旦那様、侑李様、朝食の準備が整いました。」
裕翔「 …ん。今起きるよ 」
裕翔には昔…と言っても2年前。
とても綺麗な恋人がいたんだって。
優しくて、お料理が上手で、少し小さい。
とても可愛くて、とても大事で。
だから、暗殺されちゃったんだって。
美人って皮肉なもんだ。
死んでしまった後も、今すぐ生き返るんじゃないかってくらい、綺麗なまま。
その目が開きそうで、愛しさだけ残って、微笑むように裕翔の好きな人は亡くなった。
執事さんが言ってた。
『 だから侑李様は、もう旦那様をお一人になさらないでください。あの方を家族だと思って、ここにいらしてくださいね 』
僕があそこに置いてきたのは、苗字だけ。
本当の僕なんてどこにもいない。
それだけ空っぽで、かわいそうな人間なんだ。
もしも、僕に大切な人がいたら。
その人のために泣いて、笑って、生きるくらい大切で愛しい人がいたとしたら。
そしてその人が死んでしまったら。
もう、目を覚まさない。
深い眠りに落ちて、僕の名前を呼んでもくれない。
怖い、って思った。
恋愛は依存や執着からなるから。
きっと僕はそうなった時、生きていけない。
「 ゆうとは、」
裕翔「 ん?」
だから僕は、なにを血迷ったのか、
まだ寝ぼけ顔の彼にこんなことを言っていた。
「 ゆうとは、いつ泣いたの?」
そして僕はその日、朝ごはんを食べられなかった。
びしょ濡れになったシーツを洗濯して乾かすの、メイドさんに頼んでやっと昼食を食べた。
裕翔「 ごめんね。」
「 なにが?」
裕翔「 …ありがとう 」
答えになってないよ、とつぶやく僕を
大事そうに、大事そうに、抱きしめる彼の体温は温かった。
裕翔は僕と同じだった。
泣くことすら、許されていなかった。
裕翔はこの日初めて、彼女を過去にすることができたみたいだ。
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こさこ(プロフ) - こんにちは(*´ー`*)すごく表現が綺麗なお話がいっぱいで夢中になって読みました◎とくに最後のゆといのちゃんのお話すっごく続きが気になります…!!(←ゆといの厨なので)素敵なお話をありがとうございました! (2018年1月8日 17時) (レス) id: 4f9f600403 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神楽 | 作成日時:2017年4月26日 16時