純白に一滴 ytcn ページ32
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傷なんてないのに、手を当てた胸が鼓動を大きくして、
寒いから?走ったから?
いや、ただなんとなく、この世界で息ができない。
冷えた空気は末端冷え性の自分には合わないと思いながら、そこにしゃがみ込んだ。
夜の、冬の、海になんか誰もいない。
潮騒の音を感じて、もう一度立ち上がった。
息をすることも何かを知ることも、もう疲れてしまった。
「 …しぬの?」
漆黒の髪を濡らして、傘もささず見下ろしてくる知らない男。
「 ……しぬよ。」
僕の返答に、その男の口角が上がった。
「 じゃあ、ちょーだい。捨てる命なら、俺に頂戴よ 」
真っ白に、染められて。
泣くことすら許されない。
そんな世界で、生きてきた。
「 ……おいで 」
ゆっくりと、彼が笑ったから。
そっと目閉じて意識を手放した。
もう目覚めることはないかもしれない。
それとも……それとも?
_______...
瞼が重たくて、何度もゆっくり瞬きをしたらまず目に飛び込んできた大きなシャンデリア。
あぁ、僕はまだ生きてるのか。
この後に及んで喜びを感じている僕はおかしい。
「 あ、起きた。ふふ、おはよう 」
どこか胡散臭い、この人は敵なんだろうか。
それとも僕を生かしたから、味方なんだろうか。
もしかするとただの気まぐれかもしれない。
「 ちょーだい。捨てる命なら、俺に。」
「 …本気、だったんだ 」
ニヒルな笑みを浮かべた男は僕が眠っていたベッドに腰掛けて、前髪に触れた。
「 ふふ。覚えてたなら話が早い。とりあえず名前教えて?」
な、まえ……僕の、名前。
「 ゆうり。」
「 可愛い名前だね 」
目で、あなたは?と訴えたら
僕の声が聞こえるみたいにして微笑って。
「 中島裕翔です。侑李の家族だよ。」
「 ゆう、と…」
裕翔「 そう。ゆーと 」
小さい子をあやすような手つきで僕の頭を撫でる。
撫でられるの初めてだ。
ましてやこんなに優しく触れられるのすら、初めてかもしれない。
裕翔「 少しずつでいいから、侑李を教えてね。」
きっと裕翔は、僕が何を言わなくたって僕のこと知ってたんだと思う。
だけど「侑李から聞かないと意味がない」らしいから。
初めて触れた人の優しさは、僕にとって毒でしかなかった。
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こさこ(プロフ) - こんにちは(*´ー`*)すごく表現が綺麗なお話がいっぱいで夢中になって読みました◎とくに最後のゆといのちゃんのお話すっごく続きが気になります…!!(←ゆといの厨なので)素敵なお話をありがとうございました! (2018年1月8日 17時) (レス) id: 4f9f600403 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神楽 | 作成日時:2017年4月26日 16時