二人は距離を縮めたい。1 ページ7
松村北斗side
「うっわやらかした」
次の舞台のリハーサルが終わり、一部のJr.が残って各々自主練や会話をしていた中、京本が騒ぎ出す。
「京本くん、どーしたの？」
帰り支度をしていた手を止めて、中学生くらいのJr.に囲まれている京本を盗み見る。
京本、意外と子供から好かれるんだよな。
「財布…忘れた！」
「今日なんかあるんすか？」
「なんもないけど…今日一日なんもできない」
今日はメンバーも、同年代のグループの面子もおらず、ほとんどが10歳以上離れた学生。
さすがにそんな子供から金を借りるわけにはいかないだろう。俺はしばし考え、一つの答えにたどり着く。
貸す、か？
京本からは言いづらいだろうし、ここで貸さないと死ぬほど性格悪い奴みたいだし、メンバーの窮地に手を貸さないとかあり得ないし、でも京本は俺なんかから金借りるかな、最近ちょっと仲良くなったような気がするけどやっぱり出しゃばるべきじゃないだろうか……いやでも、やっぱり。
…頑張れ、俺。
俺は意を決して京本のもとへ向かう。
蜘蛛の子を散らしたように他のJr.が消えていくのは気になるが、今はそんなどころではない。
「俺、貸すよ」
俺が涼しい顔をして京本に話しかけると、京本は目を輝かせてこちらを見る。
「え、まじ？いいの？」
「おう、全然いいよ。一万で大丈夫？」
ややセリフ感は否めないが、俺にしては頑張った方だ。
俺は京本と目線を合わせないように財布を取り出してごまかす。
「一万もいいって！あ、いや、万札しか持ってなかったらありがたく、お借りしたいんですけど…」
遠くから俺達の関係を知っているJr.達が固唾を飲んで見守っている。
「あー、五千円札ならあるけど」
「あ、それで大丈夫。まじ助かるわ」
財布から五千円札を抜き取って差し出すと、京本は一度ジャージで手を拭いてから申し訳なさそうにそれを受け取る。
「…ありがとう、明日ちゃんと、返します」
最初の方は自然に話していたのに、なぜかどんどん気まずそうにしていく京本。
始めは貸してくれる人間がいて喜んでいたのだろうが、「俺」という存在にどんどん緊張してきたのだろう。
「別に返すのはいつでもいいから」
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作者名：六花 | 作成日時：2019年5月18日 12時
