煉獄杏寿郎の歪んだ愛 弐

愛74 ページ25

杏「大丈夫だ。死ぬ時は一緒だ。」






こいつの耳は大丈夫なのか。





死にたくないと言っているのに何故死ぬ前提で話を進めるんだ。






恐怖で上手く息ができない。





少しでも動いたら首が切れそうだ。







杏寿郎は恐怖で震える私を恍惚とした表情で見つめる。






『杏、寿郎……。』


杏「なんだ？」


『お願い…やめて………。』







必死に声を絞り出し、杏寿郎にそう言えば珍しく素直にやめてくれた。




杏寿郎が日輪刀を鞘に収め、床に置いたのを確認すると一気に気が抜けて深く息を吐いた。








ガン。








いつの間にか杏寿郎は抜刀していて、寄りかかっていた柱を私の首すれすれまで斬り裂いていた。





パタタ、と首にうっすらとできた切れ目から血が垂れる。





じわじわと来る痛みでやっと状況を理解出来た。








『……え？』








杏寿郎を見れば、静かに笑みを浮かべるだけで。







そこで気づいた。






杏寿郎は、いつでも私を殺せるのだと。






私には、拒否権なんてないのだと。






彼が死ぬなら私も死に、彼が生まれ変わるのなら私も生まれ変わり彼と共に生きて行くのだと。







私は、ずっと彼に、杏寿郎に縛られて生きていく。








逃げることなんてできない。









そう気付くと、何故か笑いが込み上げてきた。







あは、あははははと狂ったように笑う。







ぼろぼろと涙を流しながら笑うなんて、どれだけ狂っているのだろう。









『殺して、お願い、もう殺して、全部忘れさせて。』









私には、死ぬしか救いがない。








死ねば記憶を忘れる。







その間だけでも幸せになれる。









杏寿郎は一度日輪刀を柱から抜くと、私に向ける。









私は両手を広げ前に差し出し、杏寿郎を見る。









杏「では、また来世。またAを見つけ出し愛すと誓おう。」









ヒュッ、と空気を斬り裂く音がして、そこで意識が途切れた。

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