煉獄杏寿郎の歪んだ愛

愛30 ページ30

宇「よぉA。」



自分に大きな影が落ちて来たので振り返れば美術教師の宇髄天元がいた。



『宇髄先生、何か用ですか？』


宇「ちょっと書類整理手伝って欲しいんだわ。お前にしか頼めなくてよ。な？」






どうしよう。


先生とはいえ男の人と二人きりになる。


杏寿郎が知ったらただではすまないだろう。




笑顔を繕って言う。


『すみません、今日ちょっと用事があって無理なんです。』




そう言うと宇髄先生は笑顔を消してすっと目を細めた。


その仕草が怒った時の杏寿郎に似ていて冷や汗が垂れる。




宇「そっかぁ。じゃあ仕方ねーな。」




ほっと息をつく。




宇「そういえば。」



宇髄先生が顔を近付け耳元で囁く。



宇「最近、地味に怪我が多いみてぇだけど、なんかあったんか？」








なんだよ。





最近皆して。





ほっといてよ。





貴方達のせいで怪我が増えるの。





心配してるならほっといてよ。



ぎゅっと手を握る。








『…別に、なんでもないです。』




自分で思っている以上に低い声が出た。



宇髄先生も少し驚いたような顔をした。



まずい。



『さようなら。仕事頑張ってください。』



にこりと笑顔を貼り付けて言えばおうと言って廊下の向こうに消えて行った。








炭治郎に、冨岡先生、それと宇髄先生。




まずいな、と思いながら廊下を歩く。




今日は炭治郎に何か聞かれそうになったらことごとく無視をしたり話を逸らした。



冨岡先生とは会わなかった。




で、宇髄先生。




宇髄先生は今日が初めてだ。


今までは普通に教師と生徒で、宇髄先生は担任でもないので家庭の話もした事がないし聞いた事もなかった。





どうにかして、バレないようにしないと。


色んな人が杏寿郎を信じている。



それに、バレてしまったらきっと千寿郎が悲しむ。


誇りに思っていた兄が義理とはいえ妹に手を出したなんて知ったら泣いてしまうだろう。








杏寿郎はずっと笑顔を貼り付けていて、心からなんて笑っていない。



彼の本性を見たから分かる。





杏寿郎は一体いつから我慢しているのだろう。



いつから自分を偽っているのだろう。




もし、それを壊してしまったら？



杏寿郎の心の居場所は？




時折、私を抱き締めて泣きながら捨てないでくれ、居なくならないでくれと言う。



私はただ杏寿郎の頭を撫でる。






一人にしたら、死んでしまいそうな気がするから。

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