Achtzehn ページ5
――今、何と云った?
彼女は、“パッパ”と“オトウサン”を区別して話した。
もしかしたら、ついに彼女は脳に異常をきたしたのかもしれない。
……と、淡い喜びを抱いていたが、それが無残にも打ち砕かれた事実を、叩きつけられた。
――……そうなると、だねえ。
「ちょっ……な、何するんですかッ!!」
声を荒げ、私に抗議するA。だが無理もない。
無理やり手を引かれ、ベッドに縛り付けられたのだから。
――ここは聖域。
――禁断の研究室。
ベッドに秘密裏に隠していたベルトを使い、彼女の身動きを封じる。ちょうど、昨夜と同じ手つきでベッド横の白い機械……所謂、特注の“記憶装置”を起動させる。
彼女の抗議の声は止まない。
やれやれ、と宥めるように、装置から延びるコードの先にある吸盤を顔や頭に貼り付ける。
「…………今から、Aの記憶をもう一度消す。もう何十回と繰り返し、昨日も行ったから、頻度が早すぎて脳に重い負担がかかるだろうねえ。だから後遺症はいつ残ってもおかしくない。でも、どんなAでも私はかまわないよ。生きていてくれるなら、それでいい」
Aの反応を窺う気はない。
ただ、今の気持ちを吐露できればそれでよかった。
「……わかりました。もう、諦めますから……最後に教えてください」
「……いいだろう、何かね?」
彼女は指一つ動かせない体で続けていた抵抗を静かに止め、ポツリとつぶやく。筆をとれない体だ。答えてもいいだろう。
「……私の記憶を消す動機は、何ですか?」
「“動機”か」
それは、初心とも呼べるモノ。
それは、非道く単純なモノ。
「………………Aの幸せのためだよ」
――そこに、嘘はない。
「友の代わりに私がAの父親になった。託されたんだよ、彼にね。だから、それに応えるための、ほんのちょっとのスパイスだと考えてくれればいい………………それじゃあ、始めようか」
納得できないかもしれないけどねえ、と笑みを投げかけつつ機械を操作する。全てを終わらせるために始めるのだ。
――Aは目と口を閉じ、その時を待つ。
私はその様子を見届け、スイッチに手を掛けた。
(R.I.P.)
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Lynn - 返事と更新待ってるよ (2022年7月12日 6時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
Lynn - 初めまして、Lynnだよ。このストーリーでいつか森鴎外(文スト)に「私、優しいので。」て言われたいな。 (2022年7月5日 5時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
坂竹会長 - あと、時期も時期ですので体調に気をつけてご自愛ください。(((長くてすみません… (2021年1月17日 19時) (レス) id: 49f17fb925 (このIDを非表示/違反報告)
坂竹会長 - お久しぶりです(覚えてないと思いますが)リアルで色々とあり離れていた内に完結していたとは…!!とても深く読ませていただいていました。完結おめでとうございます。そして、この作品を作っていただきありがとうございました!!!(号泣) (2021年1月17日 19時) (レス) id: 49f17fb925 (このIDを非表示/違反報告)
臣民(プロフ) - No.7さん» 無事に完結できまして、安堵の気持ちしかございません。更新を楽しみにしてくだっさたことは本当に作者冥利に尽きます故、深く感謝申し上げます。ありがとうございます。 (2020年9月16日 9時) (レス) id: d39d595e1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:臣民 | 作成日時:2020年7月18日 18時