8時 ページ3
「あっ……」
ペンは床にぶつかり、甲高い音を立てて跳ねる。
その音のおかげで意識が浮上したが、ペンは見事に“サイドフレームの中”という、闇に消えていった。
はぁ、とため息を一つ吐き、ペンを取るために床に伏せる。
サイドフレームの奥に手を伸ばし、探るとスグに手に何かが触れた。
――明らかに“ペン”ではないものが、手に触れた。
……生き物ではない。無機物だ。
温度がない“ソレ”を引っ張り出す。
――見慣れた形、大きさ。
否、さっき見たはずのモノ。
「…………また、手帳?」
例によって暗闇の中から出てきた手帳をめくる。『一日目』という表記から始まり、『三十日目』という表記で終わっている。これも誰かの日記のようで――…
「…………ッ!?」
ページを進む、戻るといった行為を繰り返していると、沢山の似顔絵と各人物に相当するであろう名前が書かれていた。だが、これは、先ほどの手帳にもあったことだ。
――それが、問題なのだ。
なぜ、二冊に亘って同じような人物紹介をしているのか。
ただの日記では……ない……?
半ば追い詰められた探偵のような心持で手帳をめくっていくと、ページとページの間に隠すように挟まれている、小さく折りたたまれた紙を発見した。
こんにちは、高瀬A。
貴方は記憶喪失となっている現状に、戸惑っているかもしれません。
でも、安心して。
私はベッドの下にたくさんの手帳を発見した。
それらは全部、貴方の記憶。
この手帳も、貴方の記憶。
でも、鴎外さんに回収されると困るから私も同じ場所に隠すね。
一生見つけてもらえないかもしれないけど、
いつか誰かが。
私に味方してくれる誰かが。
きっと、通じる道を開いてくれると信じて
この手帳を未来に託します。
過去の高瀬Aより。
――過去の高瀬Aより。
その文章を読み終わらないうちに、弾かれるように再びサイドフレームの奥に手を突っ込む。すると、ギリギリ手が届く距離に、それはあった。
――確かに、何冊もの手帳があった。
(
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Lynn - 返事と更新待ってるよ (2022年7月12日 6時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
Lynn - 初めまして、Lynnだよ。このストーリーでいつか森鴎外(文スト)に「私、優しいので。」て言われたいな。 (2022年7月5日 5時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
坂竹会長 - あと、時期も時期ですので体調に気をつけてご自愛ください。(((長くてすみません… (2021年1月17日 19時) (レス) id: 49f17fb925 (このIDを非表示/違反報告)
坂竹会長 - お久しぶりです(覚えてないと思いますが)リアルで色々とあり離れていた内に完結していたとは…!!とても深く読ませていただいていました。完結おめでとうございます。そして、この作品を作っていただきありがとうございました!!!(号泣) (2021年1月17日 19時) (レス) id: 49f17fb925 (このIDを非表示/違反報告)
臣民(プロフ) - No.7さん» 無事に完結できまして、安堵の気持ちしかございません。更新を楽しみにしてくだっさたことは本当に作者冥利に尽きます故、深く感謝申し上げます。ありがとうございます。 (2020年9月16日 9時) (レス) id: d39d595e1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:臣民 | 作成日時:2020年7月18日 18時