【文スト】首領、１３歳になります。【森鴎外】

第五話　すべてを見たもの ページ7

目の前の“彼”は、私の発言に目を見開きもせず、
一周回って真顔だった。

それがまた面白い。


「……いや、え……ええっ！？」
「ほら、答えてごらんよ」


急かすと、うーんと唸る。


「えっと……“甘い”、ですかね？」


私の顔色を窺うようにおずおずと答える。


「でも、一体それがどうし…………
　って、何処に行くんですか！？ 現場はどうするんですか！？」


敦君が何かを云っているうちに、その場を立ち去ろうとすると
案の定、気づかれた。


「……君はもう立派なんだから、一人でも大丈夫だよ。
　頼りにしているからね、敦君」


優しくそう云うと、彼はうッ、とうめき声を上げ、
仕方ないですね！と叫んで遺体の方に戻って行った。

……時々、彼のチョロさが心配になる。

と、いうことは秘密。

心の中で笑いながら、
彼と現場にサヨナラを告げて街に向かって歩き出す。


「……それにしても…………外傷無し、か」


一つ、“心当たり”がある。

だが、この事件の犯人が“あの子”ならば傷口が“ある”はずだ。
少なくとも、私の知っているあの子はそういう子だ。

それに加え、まだあの人の下にいるのなら――


「社長の身が危ないな……」


最悪なことに、私の予想は中る方である。

それは、かつての相棒と、上司と、友人が証明してくれるだろう。
尤も、証明できるほど、私とその人の間に溝が無いならばの話だが。

――しかし、今は、そんな事はどうでもいい。

脳を占める言葉、“外傷無し”。
それが意味するものとは――


　


(思考というホワイトパズル)

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