10話 �� ページ49
「どうも、ありがとうございました！」
若武に続いて、僕達も声を上げた。
「ありがとうございましたっ！」
＊
バス停に向かいながら、僕達は意見を出し合った。
「さて、誘拐はあったか？」
「あった」
僕達を見回して若武が言うと、間髪入れずに上杉が答えた。
「まあ、あの反応で何もなかったってのは無いやろ」
僕がそう言って、小塚も頷いたのをみると、若武は目に慎重な光を湛えた。
「理由ないし物的証拠は？」
「証拠としては弱いけど、少なくともここ数週間は、子供の衣服が洗濯された様子はなかった。僕からは以上」
ボールを投げ上げながら、黒木が言う。
「それだけなら、仕事が忙しくて子供を何処かに預けてるのかもしれない。田舎とかさ」
「いや、違うな」
否定して、上杉は静かに続けた。
「母親は二階に居た。別に病気ってふうでもなかったぜ。一歳の子供を、健康な母親から離して親類や他人に預けるなんてこと、普通はしないだろ。忙しい仕事でどうしようもないっていうんならともかく」
上杉が小塚に視線を向けると、小塚は首を横に振った。
「あの家の奥さんが忙しいなんてことは無いよ。勤めも休んでるし外出もしてないから、きっとショックだったんだと思う」
パチパチと瞬きをする。
「小塚が調べたのって玄関やんな？それだけで、そこまで分かるん？」
凄いな、と呟くと、小塚は得意そうに微笑んだ。
「靴箱にあった子供の靴に、内側にマジックで池端保育園って書いてあってね。ここは私立なんだけど、私立の保育園って結構規則が煩くて、自営業とか共働き家庭の子供しか預からない。だから奥さんは、どこかの会社に勤めている筈。あと一つ言うと、このところ雨が続いてるから、ご主人の靴の幾つかは湿ってた。でも奥さんのは、全部きれいに乾いてたんだ。子供の靴も、言わずもがな。だから、ずっと外出していない」
僕は、内心で拍手を送った。小塚の観察眼の鋭さは、きっと実験や観察を日常的にしているから身に付いたんだろう。
「保育園だったら、誘拐はしやすいよな。迎えに行く時間に親より先に行って、頼まれてきましたって言えばいいんだし」
若武が呟くと、黒木も同意した。
「その前に、保育園に一本電話を入れとけば完璧だ。きちんと名前を名乗って、親戚だとか職場の同僚だとか言って、いつもお世話になってます、なんて、しっかり挨拶をしてから、おもむろに親から頼まれましたから何時に迎えに行きます、って言って言うんだ」
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作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
