少年少女の水色事件簿二冊目 (ページ48)

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10話　② ページ48

干されているもの、籠の中のもの、洗濯機の中を調べたが、幼児用の衣服は見つからなかった。断言するには早いが、干されている洗濯物や収納された衣服を見るに、少なくともここ数週間、子供は家に居なかったと思われる。
これ以上時間をかけると、流石に怪訝に思われるだろう。
上杉と小塚に望みをかけて、もう一度トイレの水を流した。
爪先立ちで軽く音を立てながら、焦ったように庭に戻る。

「ありがとうございますっ、助かりました」

声を張り上げて男に頭を下げ、靴を履きながら若武に問いかける。

「どう？見つかった？」
「ないんだよ、おっかしいな、確かにこのあたりに入ったと思ったんだけど」
「そっかあ」

若武は、立ち木と一人乗りの赤いブランコの間から顔を出して、参ったといったふうに首に手を当てた。
それを聞いて僕は、困ったように眉を下げて答えて、爪先で地面を叩いた。しっかりと靴を履いて、さりげなく男に近寄る。

「すみません、お手間をかけて」

謝罪をするが、男は何も言わずに木の間を捜し回っている。
しつこ過ぎたか、ミスったな。植え込みの陰を捜すフリをしながら、内心舌打ちをした。
男を絆して話を聞くつもりだったが、それには時間が足りない。ぐるりと思考を巡らせる。
仕方ない、路線変更だ。

「あ、ブランコ」

顔をパッと上げて呟き、そう言えば、と男に視線を向ける。
何てことない、ちょっとした世間話のつもりだというように、柔らかく笑って首を傾げた。

「お子さん、いらっしゃるんですね。今、お幾つですか？」

すると、男は弾かれたように顔を上げた。

「そ、んなこと、」

震える声でそう呟いて、僕を睨みつけるかのように見詰める。見開かれた二つの目は強く縮み上がり、揺れていた。
恐怖、焦燥、憂慮、拒絶。
様々な感情が入り混じった瞳に、演技を忘れて片眉を上げる。子供のことに、こんなにも心を痛めてくれる親の元に生まれて、ソイツは幸せだろうな。

「そんなことっ、君には関係ないだろう！？」

悲鳴のような怒鳴り声に、現実に引き戻される。
慌てて演技に切り替えた。
これだけ過剰に反応するんだから、男の子供、加藤純の誘拐は決まったようなものだろう。

「ぁっ、ご、ごめんなさい」
「あったッ！」

僕が謝ると同時、黒木が喜色に溢れた声を上げた。視線を遣ると、木々の間で黄色のボールを持った手が高々と上げられているのが見える。
それを見て、若武は安心したように息を吐いて男を振り返り、勢い良く頭を下げた。