9話 �� ページ44
「自分たちの責任を追及されるのが嫌って訳か」
上杉は、だろうな、と肯定して、参ったといったふうに首を振った。
「それにしても、態度がデカいのなんの。てんで馬鹿にしててさ。不愉快だった。あいつら、日本国憲法を読んだことないんじゃないのか。基本的人権の尊重ってところをさ」
もう一度上杉が溜息を吐いたところで、若武と小塚が到着した。
「お待たせ。この家か？」
両手をハーフパンツのポッケに突っ込んで、目を細めて家の屋根を見上げる。
「家族構成まで調べた？」
ああ、と黒木が頷く。
「世帯主は加藤行利、妻が和美、それに一歳六か月の純だ」
子供は赤ん坊か。攫い易くて、そこからの推理は今の情報じゃ無理だな。
「これからどうする？」
若武がそう言うと、黒木は軽く笑って、ポッケからテニスの硬式ボールを取り出した。
「インターホンを押して聞く訳にもいかないだろ。これを投げ込んで、拾わせてもらう。その間に家の中の様子を見たり、加藤行利と話をしたりして、手掛かりになりそうなことを聞き出すんだ」
成程、マッチポンプって訳か。よく思い付くな、そんなこと。
感心する僕の隣で、顔を顰めた小塚が、家を眺めて言った。
「じゃあ、簡単には捜せないところに投げ込まないと駄目だよ。時間が稼げない」
上杉が顔を上げ、眼鏡のブリッジに中指を当てて押し上げる。
「建物の向こう側が庭になってる。木が沢山あるから、その間に入れよう」
よし、と元気よく言って、若武が黒木の手からボールをひったくった。
「俺がやる」
「待てよ」
黒木が若武の肩を掴んで、片手で屋根の上を差す。
「あの天窓の付いた小屋根は相当高い。ここから投げて、あれを越してその向こう側の木の間に突っ込むのは無理だ」
止める黒木に対して、若武はいや、と言った。
「できるさ」
頑として言い張る若武に、黒木は駄目だ、と首を横に振る。
「同じ手は二度と使えない。絶対に失敗できないんだ。安全なセンで行こう」
意固地になっているのか、若武は頷かない。
「大した高さじゃねーよ。せいぜい6mくらいだ。絶対できる」
黒木も、珍しく譲らない。
「いや、8mはある」
睨み合う二人に、僕と小塚は眉を下げて顔を見合わせた。
どうしようか、どうやって止める？と小声で話していると、上杉が声を上げた。
「じゃ、あの小屋根の高さを測ろう」
その言葉に、上杉以外の皆はぽかんと呆ける。
若武が、息を吞んで問うた。
「設計士でも呼んでくるのか？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
