少年少女の水色事件簿二冊目 (ページ39)

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7話　④ ページ39

家に帰ると皆は帰ったようで、アーヤへ、というメモと一緒に、手作りだろうお菓子が置いてあること以外は綺麗に片付いていた。このお菓子はきっと、ひとらんからだ。
シマ兄はお風呂に入っていたらしく、脱衣所からタオルで髪を拭きながら出てきた。

「ただいま」
「おう、おかえり」

あがったのなら丁度いいや、と思って部屋に上がり、着替えを取って階段を下りると、リビングから顔を出して、そう言えば、とシマ兄が言った。

「アーヤの友達って女が、二回電話掛けてきたで。同級生やって言いよったけど」

同級生の女子？
友達どころか、話したこともない奴が殆どやけど。
お風呂場に向かう足を止めて、後ろを振り返って首を傾げた。

「誰？」
「んっとな、」

シマ兄は顎に手を当て空中を見詰め、それからパッとこちらを振り向く。

「いり、入江、じゃなくて、えーっと、いま、せや、今井や」
「今井って、確か」

ようわからんけど突っ掛かってくる、アイツか。

＊

お風呂から上がって髪を乾かし終わってソファーから立ち上がると、タイミングを見計らったかのように電話が鳴った。
受話器を取って耳に当てる。

「はい、立花です」

電話の向こうで、息を吞んだのか言葉がつっかえたような音がした。

「立花Aさん？」

聞いたことのある声に、目を瞬く。

「今井京子です」

暫く沈黙が下りて、今井が少し吃りながら口を開いた。

「あの、私、引っ越しするの。今月の半ばに」

首を傾げる。
てっきり何か文句でも言われると思っていたのだけれど。

「それで転校もするから、その前に、どうしても言っておきたくて。あの、今までごめんね」

急な謝罪の言葉に、目を点にした。
今井は、声を詰まらせながら続ける。

「私、本当は、塾に行ってみたかったんだ。友達にも言ってる子がいるんだけど、学校と違って色んな人が居て、のびのびしてて楽しいとか、先生とも友達になれるんだとか言ってたし、本当にそう見えたから」

一つ息を吐いて、電話の向こうの雰囲気が暗くなった。

「でも、親が駄目だって言うから。うちの親は、小学生が塾に行くことに絶対反対なの」

今井は泣き出して、小さくしゃくりあげながら胸中を吐露する。

「それで私、立花さんが羨ましかったし、すごく悔しかった。私のやりたいことができるんだもの。それが八つ当たりなんだってこと、わかってたけど、止められなかった。ごめんね」

声色から、それが心からのものだと解って、僕は戸惑った。