7話 �� ページ37
若武の声は次第に勢いを失っていき、やがてフクれてチョークを投げ出した。
「ちきしょう。何にもわかんねーじゃん」
黒木が苦笑する。
「だから調査すんだろ」
そう言って、上杉に視線を移した。
「何故犯人は、加藤家の住所の活字を切り取らなかったのかな」
上杉は黒木と目を合わせて、その目に鋭い光を灯した。
「多分、必要なかったのさ。直接、加藤家のポストに入れたんだ。つまり、」
小さく口元に笑みを浮かべる。
「犯人は、加藤家を知っているってことだ」
それに、黒木は満足そうに頷いて口を開く。
「でも、それだけじゃないな。子供を誘拐できるってことは、加藤家の事情に詳しいんだ。毎日の生活パターンなんかを知っている」
頭の上で両腕を組み、椅子の背凭れに凭れ掛かる。
「何曜日の何時に子供が何処に行くとか、その時には親はどうしている、とか。でなかったら狙えないし、狙っても成功しにくい。となると」
組んだ両腕を外して、頬杖をつく。
「犯人は、加藤家と関りのある人間ってことになる。加藤家の父親か母親、あるいは子供を介しての知り合いだ。そして同時に、秀明の図書室から本を持ち出せる人間でもある」
若武が首を傾げる。
「だけど、本を持ち出した奴は、いないんだぜ」
若武の言葉に、ルーズリーフに上杉と黒木の推理を書き込みながら、口を開いた。
「有田の目え誤魔化すんは、幾らでもやりようあるで」
黒木も笑って、僕に続けて言う。
「やる気になりゃ、若武にだって出来る」
若武はムッとしたようだけれど、黒木は気にしたふうはなく、上杉の方を見た。
「ただ、そいつが誰なのかを特定するのが難しいよな」
腕を組みながら考え込んだ様子で頷き、上杉は視線だけを黒木に向けた。
「いっそ、犯人からじゃなくて加藤家のセンから探ろうか」
眼鏡を掛け直しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「加藤行利、もしくは利行って名で、この街の住民を全部当たってみるんだ。上手くいけば、加藤家の住所が出てくるぜ」
黒木がふっと笑った。
「上手くいかなったら？」
黒木と似た表情で、上杉も口角を上げて僅かに笑う。
「膨大な無駄足さ」
そうして、二人は見詰め合ってクスクスと笑い出し、僕達はついて行けずに沈黙した。
上杉と黒木の、このノリ、シマ兄と大先生のノリと似た感じがする。二人は、親友とか、相棒ってやつなんだろう。
「じゃあ黒木、住民をあたって、加藤行利もしくは利行を捜せよ。子供のいる奴に限るぜ」
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作者名：みずいろ。 | 作成日時：2021年6月24日 18時
